受験勉強
登場人物
浪川優子・・・・・・高校2年生
高見望・・・・・・高校2年生
三上洋一・・・・・・高校2年生
女子高生1
2
3
プロローグ
舞台は体育館。
女子高生たちが、グチグチとおしゃべりをしながら登場。
女子高生1「はぁ、つかれた~」
女子高生2「ほんとにねー」
女子高生1「もう、授業とか補習の課題が多すぎて、マジやんなっちゃう」
女子高生3「そうだよねー、まあ、ウチは一流の進学校だもんねー」
女子高生1「はぁ~、これから部活かぁ」
女子高生3「めんどくさいよねー」
女子高生2「ほんとほんと」
女子高生1「はあー、マジで死にたいわ~」
女子高生3「いっそ学校なんて、なくなっちゃえばいいのにね」
女子高生2「あ、わかるー」
女子高生3「わかる?」
女子高生2「うん」
女子高生1「はあー、マジでメンドイわ~」
女子高生2「何で私たち、高校にいるんだろ」
女子高生3「どうしたの、急に」
女子高生2「いや、だってこの高校の勉強、キツイからさー」
女子高生3「ああ」
女子高生2「ねえ、今日の部活、5分遅らせない?」
女子高生1「さんせー」
女子高生3「えっ、いいのかな~」
女子高生2「いいっていいって。後輩はまだ来てないし、どうせ先公はこの時間来ないんだから」
女子高生3「ああ、それもそっか」
女子高生1「もう、あの人マジで死んでほしいよねー」
女子高生2「ほんとにねー」
女子高生1「どうせウチらは県には行けないんだし、もっと自由にしてほしいよねー」
女子高生3「わかるわかる」
女子高生1「あ~、マジつまんねえ~」
女子高生2「先公来てる?」
女子高生3「ううん、まだ」
女子高生2「よかった~」
女子高生3「ところでさ。いま優子って、どうしてるんだろーね」
女子高生2「優子?」
女子高生1「あの子は今、学校で受験勉強してるみたいよ」
女子高生3「へえ、そうなの?」
女子高生1「うん。ウチ、学習室で優子見かけたもん」
女子高生3「まじめ~」
女子高生1「ほんとほんと、いい気味だよ。あいつ、マジ存在がウザいもんねー」
女子高生2「そうだよねー」
女子高生1「あんなヤツ、一生ガリ勉でもしてりゃいいのに・・・・・・」
音楽。
暗転。
1
舞台は教室。
舞台上には、浪川優子(17歳)と高見望(17歳)が勉強に励んでいる。
舞台上に、二人のほかには誰もいない。
間。
望「ねえ」
優子「ん?」
望「ちょっと、休憩とらない?」
優子「どうしよう」
望「ダメ?」
優子「ううん、いいよ。休もっか」
望「ごめんね」
優子「いいっていいって」
優子、背伸びをする。
望「優子。そっちの方、どんな調子?」
優子「課題?」
望「課題というか、受験勉強」
優子「う~ん、まだ始めたばかりだからね」
望「へぇ、そうなの。意外ねぇ」
優子「そんなに意外?」
望「うん。私、優子だったらもっと早くから勉強してると思ってた」
優子「いやいや、まだ2年だよ? やるわけないじゃん」
望「でも、今はやってるじゃない」
優子「もう、わかってるくせに」
望「ごめん」
優子「いや、何ていうか・・・・・・」
間。
優子「望、どこを受けるつもりなの?」
望「私?」
優子「うん」
望「いやぁ、私は~、大したトコ受けないからさぁ」
優子「どこ?」
望「・・・・・・中央大学」
優子「ああ、豊田の中央大学?」
望「そう」
優子「学部はどこ?」
望「経済学部よ」
優子「ふうん。なかなかの一流大学ねぇ」
望「優子はどこへ行くのよ、やっぱ東大?」
優子「ふふっ、まさか」
望「じゃあどこ」
優子「早稲田」
望「変わんないじゃな~い」
優子「どこが」
望「レベル高すぎ」
優子「いやいやいやいや、早稲田は低いほうでしょ?」
望「でもレベル高いって」
優子「いや、レベル低いって」
望「高いよ~」
優子「いやいや、低いってば」
望「・・・・・・あのね、優子。それって、どういう意味をもつか分かってる?」
優子「え?」
望「優等生である優子が受ける早稲田で『レベルが低い』っていうなら、優子よりもさらに下の私たちはどうなるワケ? もっとレベルが低いことになるじゃない」
優子「いや、そんな・・・・・・」
望「優子。謙虚なのはいいけど、謙虚が過ぎると、傲慢になるのよ。それ、気をつけた方がいいわよ」
優子「・・・・・・ごめん」
望「な~んて。冗談よ、冗談」
優子「え~、なにそれ~」
望「ごめんごめん、つい気分で」
優子「もう~」
互いに笑い合う二人。
間。
望、ため息をつく。
優子「もう、いっそ時間なんて、止まっちゃえばいいのに」
望「え? どうして?」
優子「だってイヤなんだもん」
望「なにが?」
優子「何がって、学校」
望「ああ」
優子「望は、そうは思わないの?」
望「いや、私は・・・・・・」
優子「うん」
望「・・・・・・まあ、わかると言えば、わかるよ。学校って、何かとめんどくさいわよね。でも、仕方ないことだとも思うのよ」
優子「どうして?」
望「いや、どうしてって言われても・・・・・・高校なんて、そういうものじゃない。めんどくさくて当たり前」
優子「それはそうかもしれないけど」
間。
望「そんなにイヤなの? 私と一緒にいるのが」
優子「いやいや、そんなことはないよ」
望「冗談よ」
優子「え?」
望「バカね、冗談に決まってるじゃない」
優子「あ、ああ・・・・・・」
望「冗談よ、ジョウダン」
望、優子をくすぐり出す。
ケラケラ笑う優子。
優子「何するの!」
望「いいじゃない、たまにはマッサージも必要でしょ」
優子「これ、マッサージじゃない」
望「マッサージだよ」
優子「マッサージじゃない!」
望「マッサージだって!」
優子「手つきがイヤらしい」
望「ヘンなこと言わないでよ」
優子「だって~」
そこに、男子高生・三上洋一(17歳)が登場。
間。
三上「・・・・・・」
三上、おそるおそる去っていく。
再び笑い合う望と優子。
三上、再び登場。
沈黙。
三上「・・・・・・何してるの?」
望「はぁ?」
三上「いや、何してるのかな~って」
望「わからない? 受験勉強だけど」
三上「受験勉強」
望「そうよ」
三上「その割には、手が動いてない気が・・・・・・」
望「ナニ?」
三上「あっ、ごめん」
望「違う違う。なにか用かってこと」
三上「いや、その・・・・・・」
望「うん」
三上「・・・・・・その~」
望「じれったいわねぇ」
三上「ごめん」
望「いや、謝らなくてもいいんだけど」
優子「キミ、たしか三上洋一君だったよね。クラスメイトの」
三上「うん。そうだよ」
優子「三上君、部活はどうしたの?」
三上「今してるよ」
優子「これで?」
三上「うん」
優子「何部だったっけ」
三上「文芸部だよ」
優子「ふうん」
三上「いま、作品のネタ探しをしてるところなんだ」
望「ふう~ん」
三上「ごめん。勉強の邪魔だったよね」
優子「ううん、大丈夫。よかったら座る?」
三上「いや、申し訳ないよ」
優子「私のすすめた椅子に、座れないというの?」
三上「いや、その・・・・・・座らせていただきます」
三上、二人のそばに近づいて席につく。
間。
望「文芸部って、何をするの?」
三上「え?」
望「文芸部って何をするの?」
三上「いや・・・・・・ただひたすら調べて、物語を書くだけだよ」
望「ふう~ん」
優子「どんなのを書いてるの?」
三上「ラノベだよ」
優子「ラノベ?」
三上「ラノベを知らない? ライトノベルだよ」
優子「ああ」
望「へえ、すごいじゃない」
三上「いやぁ、大したことないよ」
望「そんな謙遜しなくても」
三上「いや、謙遜じゃないよ。ホントに大したことなくて・・・・・・」
望「・・・・・・あのねぇ三上君。小説が書けるあんたが大したことないなら、小説が書けない私たちは一体どうなるワケ? もっと大したことないってことになるじゃない」
三上「いや、そんな・・・・・・」
望「冗談よ」
三上「え?」
望「冗談で言ったの。わからない?」
三上「ええ?」
望「いや、そんなびっくりしなくてもいいじゃない」
三上「ごめん」
優子「いまは、どんなジャンルのライトノベルを書いてるの?」
三上「まだ決めてないんだ」
優子「そうなの?」
三上「うん。いま取材中で」
優子「へえ・・・・・・」
望「取材っていうけど、具体的には何をしてるの?」
三上「いや、まあ簡単に言えば、人間観察だよ」
望「人間観察?」
三上「うん。いま二人が、勉強の合間でおしゃべりしてるのを観察して、そこからいろんな着想を考えてたんだよ」
優子「たとえば?」
三上「えっ、たとえばって言われても・・・・・・」
望「なに、しっかりしてよ、作家さん」
三上「いやぁ、僕は作家じゃないよ~」
優子「で、たとえば?」
三上「いや・・・・・・たとえば、二人が勉強してる時に、一人の少年がやってくるんだ」
望「ほう~。それで?」
三上「それで?」
望「それで、そこから先はどうなるのよ」
三上「いや、それから・・・・・・その少年は未来からやってきた少年で、二人に話しかけたりして」
望「なんて」
三上「『二人とも、ここから逃げるんだ! ここはもう危ない!』・・・・・・みたいな」
望「何それ」
三上「いや、たとえばの展開だから」
優子「面白そう!」
三上「えっ、そうかな~?」
望「自分で考えたくせに、おもしろいと思わないの?」
三上「いや、だからあくまでたとえ話だから」
望「ふうん」
優子「それじゃあつまり、三上君は作品のネタを探してたんだね。さっきから」
三上「そう。もう、これからどうしようか迷っちゃって」
優子「なるほどね」
三上「ごめん。勉強中に邪魔しちゃって」
望「いいっていいって。今は休憩中だから」
三上「そう、それならいいんだけど」
優子「うん」
少しの間。
三上「ところで、キミらは部活、どうしたの?」
優子「私たち?」
三上「そう」
優子「私は、やめちゃった」
三上「どうして?」
優子「どうしてって・・・・・・」
望「受験シーズンがそろそろ来るから、だよね?」
優子「うん」
三上「え? 受験シーズンはまだ来年でしょ?」
望「早めにやっておいてるのよ、優子は。ねえ」
優子「う、うん。まあ・・・・・・」
三上「ふうん・・・・・・なんか、さびしいね」
優子「どういうこと?」
三上「いや・・・・・・なんか青春してないっていうか」
望「部活のために学校へ通ってるわけじゃないでしょ、私たちは」
三上「いや、それはそうかもしれないけど・・・・・・」
優子「三上君は、いつまで続けるつもりなの?」
三上「部活?」
優子「うん」
三上「三年までは続けるつもりでいるけど」
優子「すごいね」
三上「いや、当然でしょ。だって楽しいんだもん」
優子「そう・・・・・・」
望「文芸部って、大会があったりするの?」
三上「うん。大会というか、文化祭とか展示なんだけどね」
望「へえ、そうなの」
三上「うん。自分の書いた文芸作品を、文化祭とか展示会に出品するんだ。それで、審査員が選んだ数作品が県とか地区の大きな展示や文化祭に行って、それでさらに成績がよかったら、全国へ行くんだ」
望「ほう~。それで、この辺ではどれだけ文芸部があるの?」
三上「この辺では、数だけで言えば15くらいかな」
望「案外多いのね」
三上「うん。でも、多くの学校では部誌をつくるのに留めているところも多いみたいで、地元の展示会なんかは競合が少ないんだ」
望「え? それってつまり、運動部で例えると、いきなり県大会から出場できるような感じなの?」
三上「うん、そうだよ」
望「いいわねぇ、それ」
三上「まあね」
優子「それで、三上君はどうなの?」
三上「どうって?」
優子「だから、三上君の作品は、上の大会と言うか、展示会に出たりしたの?」
三上「ああ」
優子「出たの?」
三上「いや、惜しくも僕は、上には行けてない」
優子「そう」
三上「でも、自慢じゃないけど、個人的に新人賞へ出品したら、予選は通過してるんだ」
優子「へえ、すごい」
三上「ノミネートはできてないんだけどね」
優子「ああ・・・・・・」
望「いや~、それでもすごいじゃない」
三上「いや、そんなことないよ。上にはもっと上があるからね」
望「それはそうだろうけど」
優子「将来は、作家さんにでもなるの?」
三上「うん、まあね」
優子「そうなんだ~。サインでももらおうかなぁ」
三上「サ、サイン!?」
望「うわ、ズル~い。私にもちょうだいよ」
三上「そ、そんな・・・・・・まだ有名になってないのに」
優子「だからこそだよ。ほら、ここに書いて」
三上「・・・・・・わかった」
三上、優子からノートを受け取り、ページの隅にサインを書く。
優子「ありがと」
望「ほら、つぎ私」
三上「うん」
三上、望のノートにサインする。
望「・・・・・・『川原高』? 三上君、本名じゃないの?」
三上「うん。僕は、このペンネームでやろうと思って」
望「どうして?」
三上「本名じゃ自信がなくてさ」
望「自信がない?」
三上「僕、負けたくないんだよ」
望「え?」
三上「まわりの批判に負けたくないんだ。僕は」
望「・・・・・・」
間。
優子「川原高って、どうしてつけたの?」
三上「僕のウチ、川原の近くにあるんだ。それで、その川を高い堤防から見下ろすのが好きで、それで・・・・・・」
優子「なるほど・・・・・・」
三上「ヘンかな」
優子「ううん、かっこいいよ」
三上「ほんとに?」
優子「うん。なんか、すでに作家さんって感じがして、いいと思う」
三上「いやぁ、それほどでもないよ」
望「ホントよね~」
三上「えっ?」
望「冗談よ、ジョウダン」
三上「あ、ああ・・・・・・」
気まずい空気になって・・・・・・
望「あっ。そろそろ勉強しなくちゃ」
優子「受験勉強?」
望「そう。いや、でもその前に課題をやらなきゃ」
優子「ああ」
望「そろそろ勉強再開するね」
優子「そうだね。それじゃあ、私も」
三上「ごめん」
優子「え、ううん、いいよいいよ。なんで謝るの」
三上「いや、何か邪魔しちゃったみたいで」
優子「だから、大丈夫だってば。気にしなくていいよ」
三上「そう、ならいいんだけど」
三上、自分の席についてルーズリーフとシャープペンシルを取り出す。
優子「ん? 三上君も勉強?」
三上「ううん、執筆。プロットの」
優子「プロット?」
三上「作品のあらすじだよ」
優子「なるほど・・・・・・」
間。
望「疲れた」
優子「早くない?」
望「だって勉強つまんないんだもん」
三上「課題は終わったの?」
望「え?」
三上「君の課題は終わったの?」
望「ま、まあ。半分くらいはね。三上君は、筆は進んでるの?」
三上「見てのとおりだよ」
望「・・・・・・真っ白」
三上「ここ最近は、ずっとそうだよ」
望「頑張ってよ、作家さん」
三上「そんなこと言われても・・・・・・」
望「私の応援じゃ不満なわけ?」
三上「な、なんでそうなるの」
望「やだねエ、冗談に決まってるじゃない」
三上「はぁ」
望「とりあえず、なにか文字を書いてみたら? ほら、タイトルの鍵カッコとか」
望、三上のルーズリーフの上にペンでウンチを書く。
三上「な、何するんだよ!」
望「ご、ごめん! ちょっと手伝えたらって思っただけで・・・・・・」
三上「このルーズリーフ、めちゃくちゃ高かったんだよ!?」
望「はぁ?」
三上「ルーズリーフ、100枚を10セットで2350円。2000円以上もかかってんだよ!? おかげで今月の小遣いはカツカツなんだよ」
望「何でそんなに買い込んでんのよ!」
三上「個別で買う時間がないんだよ! 部活や勉強の合間にいちいちルーズリーフを買う暇があったら、作品の取材や執筆をしたいからさ。勉強も忙しいし」
望「な、なるほど・・・・・・」
三上「まったく、なに書いてくれてんだよ~」
望「いや、見てのとおり、ウンチよ」
三上「そういうことを言ってんじゃない!」
望「ま、まあ。たしかに、他人の大事なルーズリーフに、ウンチはなかったとは思ってるけど」
三上「そうだよ! ひとのルーズリーフに勝手に落書きしないでよ。僕の一枚分を返してくれよ!」
優子「うるさい!」
三上・望「・・・・・・・・・・・・ごめん」
間。
三上「やっぱり・・・・・・僕、辺りを散策してくるよ」
望「私、トイレに行ってくる」
三上、望、退場。
間。
望が帰ってくる。
望「ただいま~」
優子「・・・・・・おかえり」
望「勉強の調子、どう?」
優子「まだ始まったばかりだから」
望「そ、そうよね・・・・・・」
沈黙。
しばらく二人が勉強していると、再び三上が教室に入ってくる。
つい三上と目が合ってしまう優子と望。
間。
三上、退場。
優子・望「いやいやいやいやいやいや」
優子「三上君、なんで入らないの?」
三上の声「勉強中に申し訳ないよ」
優子「さっきのことだったら、もう気にしなくていいよ」
望「そうよそうよ」
優子「え?」
望「あ、いや、その・・・・・・何というか・・・・・・」
優子「三上君! 三上く~ん」
しばらくすると、三上、おそるおそる登場。
三上「ほんとに、いいの?」
優子「うん、大丈夫。私、別のところで勉強するから」
三上「よくないじゃん」
優子「いや、大丈夫だってば。三上君はここでやりたいんでしょ?」
三上「ま、まあ。ここでやりたいというか~」
優子「だったらいいよ。ねえ」
望「え、ええ、まあ・・・・・・」
三上「悪いね」
優子「ううん。こっちこそ、さっきは怒鳴っちゃってごめんね」
三上「いや。いいよ。勉強、がんばってね」
優子「ありがと」
優子、退場。
望「さてと。私はそろそろ、残りを家で勉強しようかな~」
三上「あの、高見さん」
望「はい?」
三上「あの・・・・・・君にこのことを話しても仕方ないと思うんだけど」
望「なんなの?」
三上「いや・・・・・・僕、浮かんだんだ」
望「何が」
三上「次の作品のアイデアが」
望「・・・・・・ふう~ん」
暗転。
音楽。
2
舞台は前場に同じ。
舞台上には、優子、望、三上がいる。
三上「それじゃあ、今から取材させてもらうね」
望「ええ」
優子「ほんとに、私たちなんかでいいの?」
三上「うん。むしろ、君たちがいいんだ」
優子「どうして?」
三上「何となく」
優子「ああ、そう」
望「それで、私たちに聞きたいことって?」
三上「あ、ああ。その、君たちはどうして、いま受験勉強に励んでいるのかを聞きたいんだ」
望「どうして受験勉強に励んでいるのか?」
三上「そう。それで、高見さんや浪川さんのいま置かれている家庭の事情とか、将来の夢について詳しく知りたいんだ」
望「ふうん。それから、作品の構想を練るの?」
三上「そうだよ。ダメかな」
望「う~ん。やっぱり、私はちょっと恥ずかしいかも・・・・・・」
三上「やっぱり、ダメ?」
望「ごめんね」
三上「ガァーン」
優子「私は、全然かまわないよ」
三上「ほんとに!?」
優子「うん。さすがに、ノンフィクションにされると困るけど、物語のモデルになるくらいだったら」
三上「ありがとう」
優子「いいえ」
三上「それじゃあ、まずは高見さんのほうから聞かせて」
望「あんた、ヒトの話聞いてなかった?」
三上「ああ、そうだった。ごめんごめん」
優子「私の家庭の事情を、話せばいいの?」
三上「うん。お願い」
優子「わかった。・・・・・・私の家庭は、自営業の雑貨屋さんでね」
三上「ホウ、雑貨屋さん」
優子「うん。地元の商店街で、『ナミカワ雑貨屋』っていう名前の店を出してるの」
三上「へえ~。お父さんがやってるの?」
優子「そうね」
三上「具体的には、どんな雑貨屋さんなの?」
優子「おもにお土産やギフトの食器とか陶器、置物が多いかな」
三上「なるほど」
優子「そんなことも、小説のネタになるの?」
三上「うん、十分なるよ」
優子「どこまで使う気?」
三上「全部ってワケじゃないけど、使える所はできる限りかな」
優子「ふうん」
三上「で。浪川さんはどうして、この高校に入ったの?」
優子「え?」
三上「話せる範囲でいいんだ。できればいろいろと知りたいから」
優子「え、ええ~」
三上「ダメかな」
望「それはいくら何でも、プライバシーの侵害じゃないの?」
三上「そ、そうかな~」
望「そうよ。いくら何でも踏み込みすぎよ」
三上「そ、それもそっか。ごめん、浪川さん」
優子「理由なんてないよ」
三上「えっ?」
優子「私がこの高校に入った理由は、特にないよ」
三上「そうなの?」
優子「うん。受験の時は、『社会に貢献できる大人になりたいから』って試験官の先生に言ったけど、そんなのは後付け。勉強だって、好きでもなければキライでもない。ただ私は、今をもっと幸せにしたかったの。高校に入れば、もっと幸せになるって親に言われたから。でも、別にだからといって、この高校に強い思い入れがあったわけではないんだよね」
三上「なるほどねぇ」
優子「他に聞きたいことは? それだけ?」
三上「ううん。僕、もっと聞きたいことがある」
優子「なに」
三上「部活についてのことだよ」
優子「部活?」
三上「うん。まだまわりは2年でも、部活をやめずに続けてるでしょ? なんで君は、そんな中で部活をやめたのかなって思ってさ」
望「やめちゃいけないワケ?」
三上「いや、そういうわけじゃないんだけど・・・・・・」
優子「なんでったって、だって、来年受験を控えてるから」
三上「いやいや、そうじゃなくて」
優子「どういうこと?」
三上「僕が聞きたいのはね、なんでそう、部活に対する思い入れというか、情熱を捨てられるのかなって思ってさ」
望「はあ?」
三上「な、なんで高見さんが反応するの」
望「だって」
三上「うん」
望「あんた、デリカシーなさすぎよ」
三上「デリカシー」
望「なんで優子がいま受験勉強をしてるかなんて、優子の勝手でしょ?」
三上「そ、そんなこと言ったら、全然取材にならないじゃないか」
望「別にいいじゃない。童謡でもたしかあったじゃない。♪か~ら~す~、なぜ泣くの カラスの勝手でしょう~♪ って」
三上「いやいや、あれは志村けんのギャグだから」
望「え、そうなの!?」
三上「そうだよ。僕も小さい頃はよくそう歌で聴いてたけど、僕の小学校の先生がそう教えてくれたんだ。『あれは志村けんのギャグだ、本物の歌はそんな歌詞じゃない』って」
望「へ~、知らなかった~。言われてみれば、たしかに、あのバカ殿の志村さんだったら言いそうなギャグよね」
三上「つまり、何が言いたいの? 『七つの子』のことを言いたいんじゃないでしょ?」
望「いや、だから、少しは優子に気づかいを持ちなさいって言ってるのよ」
三上「気づかい?」
望「そうよ、さっきからズケズケと、相手の領域に図々しく入り過ぎなのよ」
三上「いいじゃないか、いま取材させてもらってるんだから」
望「取材でも程度を考えろって言ってるのよ」
優子「望、いいよ」
望「でも・・・・・・」
優子「いいってば」
望「・・・・・・」
優子「私ね、三上君。ついこの前までは、バスケ部のレギュラーだったの。それで、チームの皆を引っ張ってた立場だったの。まあ、部長ってほどじゃなかったけど」
三上「へえ、そうだったんだ・・・・・・」
優子「三上君がどんな作品を書く気か知らないけど、正直に話すね」
三上「うん」
優子「・・・・・・こじらせちゃったんだよね。人間関係を」
三上「こじらせた」
優子「うん。私、あの窮屈な身内同士のなれ合いが、すっごくイヤで。全然気合いが入ってないっていうか。同級生のみんな、自分のいまの楽しみにしか力を注いでない感じに見えちゃって」
三上「なるほど」
優子「私の場合は、部活をやるんだったらキッチリやりたい方なの。それで、日頃先生のいないところで怠けてる部員たちを叱ったの。そしたら、なんでか逆に、私が怒られる展開になっちゃって」
三上「そう、なんだ・・・・・・」
優子「やんなっちゃった。先生も、あの子たちの言うことを真に受けちゃってさ。それで、もう、やんなっちゃって・・・・・・私、なんで今まであんな人たちと、一緒に部活をやってたんだろうって。だって私、あんな人たちと一緒にされたくないもん!」
三上「・・・・・・ごめん」
優子「え?」
三上「イヤなことを思い出させちゃって、ごめん」
優子「ううん、いいよ。気にしないで」
三上「ごめん・・・・・・」
優子「・・・・・・で、何か参考になった?」
三上「うん、すっごくなった。君にも、それなりの事情があるんだね」
優子「当たり前だよ」
望「三上君、優子に聞いたことから、どんな作品をつくる気なの?」
三上「いや、それは秘密だよ」
望「ズルイ」
三上「何で」
望「だって、優子は情報を提供したのよ? なのにお返しがないだなんて、不公平よ」
三上「不公平ったって・・・・・・」
優子「いいよ、望。私は気にしてないから」
望「でも気にならない? 三上君がどんな作品を書くのか」
優子「それは気になるけど・・・・・・」
望「でしょう?」
三上「高見さんは取材に応じなかったじゃないか」
望「いいじゃない、知る権利よ」
三上「それはそうかもしれないけど・・・・・・」
優子「望」
望「なに」
優子「三上君困ってるじゃん」
望「でも~」
三上「僕の作品だったら、ネットで公開してるよ」
望「えっ、そうなの?」
三上「うん。まあ、去年書いた小説なんだけど、もしよかったら読んでみて」
望「ああ、そう・・・・・・」
三上「前も話したと思うけど、僕のペンネームは『川原高』っていうから。川の原っぱに、『高い低い』の高いで」
望「え、ええ」
三上「まあ、ひどい作品だとは思うけどね」
望「そうなの?」
三上「うん。それじゃあ、僕は部室に戻るよ。今日はありがとうね」
優子「ううん、こっちこそありがと。なんか、スッキリしちゃった」
三上「そう、それならよかった」
優子「いい小説を書いてね」
三上「わかった。がんばって書くよ。じゃあね」
優子「うん」
三上、退場。
間。
優子「受験勉強してるね」
望「うん、わかった。私、早速三上君の小説検索してみる」
優子「どうぞご自由に」
間。
望「うわっ、何これ」
優子「どうしたの?」
望「あっ、ごめん。邪魔しちゃって」
優子「ううん、いいよ。どうかしたの?」
望「いや、三上君の小説のことなんだけど」
優子「うん」
望「こんな評価がつけられてるみたいで・・・・・・」
望、優子に自分のスマートフォンを手渡す。
優子「えっ、何コレ。ひどい」
望「でしょう?」
優子「何で、こんなに悪口が書かれてあるの?」
望「わからない。よっぽど気に入らないからじゃないの?」
優子「でも作品の評価で『死ね』はないでしょ」
望「そうよね」
優子「しかも一個や二個じゃないじゃん。こんなにたくさん!」
望「ネットの世界って、怖いわね」
優子「三上君、毎日こんな悪口を書かれながら、がんばってきたんだね」
望「そう、ね・・・・・・フツーの学生だったら、これは冗談抜きに、死にたくなるわよね」
優子「ほんとにね。よく耐えられるなぁ」
望「ほんとほんと」
少しの間。
望「ごめん。勉強、全然進まないわよね」
優子「ううん、大丈夫。今からやろ」
望「そうね」
勉強を再開する望と優子。
音楽。
望「・・・・・・やっぱ気になる!」
望、スマートフォンを再び触り始める。
暗転。
幕間
舞台は校庭。
女子高生たちが、グチグチ言いながら登場。
女子高生1「あー、マジ疲れたー」
女子高生2「おつかれー」
女子高生1「おつかれ。あっ、まだ授業の課題やってないわー」
女子高生3「あ、私も」
女子高生1「いつやろう」
女子高生2「今でしょう」
女子高生1・3「ふるーい」
女子高生2「あはは、ごめんごめん」
女子高生1「はぁ~、今ごろあのガリ勉は、あの教室で熱心にやってるんだろうねー」
女子高生2「ガリ勉?」
女子高生1「優子だよ、優子」
女子高生2「あー」
女子高生3「マジウザいよねー」
女子高生1「ほんとにね。アイツただでさえ頭いいのにね」
女子高生2「えっ、そうなの?」
女子高生1「うん。ウチ、テスト返された時見ちゃったの。アイツ、90点ばっかだった」
女子高生3「うわー、ウッザ~」
女子高生1「マジウザいよねー」
女子高生3「ほんとにねー。なんか真面目キャラ演じすぎー」
女子高生2「そうそう、点数稼ぎもいいとこよねー」
女子高生1「マジそうだよねー。ウチ、ああいうのは無理だわー」
女子高生3「でも、私たちもうすぐ高3になるよね。受験勉強しなくちゃいけないよねー」
女子高生2「まあ、そういうコースだからね、普通科っていうのは」
女子高生3「二人とも、就職はしないの?」
女子高生1「まだしたくなーい」
女子高生2「私もー」
女子高生3「どうして?」
女子高生1「だって、大学って楽しそうじゃん」
女子高生2「そうだよ~」
女子高生3「まあ、確かにそうだよねー」
女子高生1「あんたは受験しないの?」
女子高生3「そりゃ、受験はするけど」
女子高生1「けど?」
女子高生3「なんかさ、不安なんだよねー。これからの将来、本当にこのままでいいのかっていうかぁ」
女子高生1「(声をあげて笑う)将来なんて、クソくらえよ」
暗転。
3
舞台は教室。
三上が執筆活動をしている。
そこに、優子が登場。
優子「お疲れさま、川原先生」
三上「やめてよ、その呼び方。恥ずかしいよ」
優子「作品は書けてるの?」
三上「うん、まあぼちぼちね」
優子「どこまで書けたの?」
三上「前半の展開は書けたけど、あとは後半なんだよなぁ」
優子「これが原稿?」
三上「うん」
優子「思ったよりも枚数少ないけど・・・・・・」
三上「まあ、今回は短編小説の予定だから」
優子「ふうん。で、私はどうなの?」
三上「え?」
優子「私はどう書かれてるの?」
三上「いや、どうって言われても、普通の女子高生として書かれてあるけど」
優子「ふうん」
三上「あの、こっちの作業に戻ってもいい?」
優子「ああ、ごめんごめん」
少しの間。
優子、三上の原稿をじっと見つめる。
三上「受験勉強はしないの?」
優子「うん、今は大丈夫」
三上「休憩中なの?」
優子「うん、まあね」
三上「そうか」
間。
三上「気になるの?」
優子「え?」
三上「さっきから、こっちのほうを見つめてるでしょ? 気になるの?」
優子「うん。ちょっと」
三上「じゃあ、ここまで読んでもいいよ」
優子「いいの?」
三上「うん、いいよ」
優子「ありがと」
優子、三上から原稿を受け取り読み始める。
間。
優子「ふうん」
三上「もう読み終えたの?」
優子「うん、ザックリとだけど」
三上「速読ができるんだ」
優子「まあね」
三上「で、どうだった?」
優子「いや、まだ何とも」
三上「そうだよね~」
優子「この話ってさ、要するに前の取材をもとにしてるんだよね」
三上「うん、まあね。ダメかな」
優子「いや、ダメっていうか。何か平凡だなあって思っただけ」
三上「平凡」
優子「うん。私、小説に詳しいワケじゃないけど、なんか、その・・・・・・」
三上「つまらないんだね」
優子「うん」
三上「そ、そんなハッキリとうなずかなくても・・・・・・」
優子「ごめん。でも、少なくとも言えるのは、私が置かれてる状況とはずいぶん違うってことだね」
三上「そりゃあ、これはあくまでフィクションだから」
優子「でもモデルは私なんでしょ?」
三上「ま、まあそうだけど」
優子「だったら、私の人生に沿った、もっとリアリティーのある話にしてほしいな」
三上「でも、そこまでやるとプライバシーの侵害になるじゃない」
優子「ええ~?」
三上「なに、その反応は」
優子「だって、三上君もう、私のプライバシーを侵害してるじゃん」
三上「え?」
優子「『え?』じゃないよ。そうでしょ? 私をモデルにする時点で」
三上「そ、そんな。ちょっと君の人生をモデルにしただけでプライバシー侵害なんて言われたら、まともに作品なんて書けないよ」
優子「でも、モデルになったほうの権利ぐらいは保障してちょうだいよ。それ、基本でしょう?」
三上「ご、ごめん・・・・・・」
優子「いや、謝ってほしいワケじゃないの。私が言いたいのは、どうせ書くなら徹底的に書いてほしいってこと」
三上「徹底的に」
優子「そう。具体的にどうすればいいのかはよくわからないけど、もっと、もっとグッとくるような話にしてほしいの」
三上「うう~ん、気持ちはわかるんだけど・・・・・・」
優子「ごめん、ちょっと言い過ぎちゃったね」
三上「いやいや、大丈夫だよ。むしろ参考になった。ありがと」
優子「そ、そんな・・・・・・」
間。
三上「それじゃあさ、聞きたいんだけど」
優子「なに」
三上「君の部活の同級生って、どんな感じの子たちだったの?」
優子「えっ」
三上「話せる範囲でいいから。どんな感じだった?」
優子「・・・・・・なんていうのかな。皆、普段は優しくて明るいんだけど。なんか、皆それぞれに事情を抱えているように見えた」
三上「たとえば?」
優子「たとえば、バスケ部に入ったのは友達の誘いで、軽い気持ちで入ったって子がいたり、本当は学校に行きたくないのに、イヤイヤで授業や部活に行ってたり」
三上「へぇ、そんな子もいるんだね」
優子「うん」
三上「わからないなぁ。もう義務教育じゃないんだから、そんなにイヤなら行かなくてもいいと思うけど」
優子「いやぁ、私はその気持ちはわかる気がするけどね」
三上「そうなの?」
優子「うん」
三上「勉強、好きでもなければキライでもなかったんじゃないの?」
優子「勉強はね。でも、学校は違うの」
三上「どういうこと?」
優子「私さ、実は中学校の時、登校拒否をしてたんだよね」
三上「え? そうなの?」
優子「うん。一時的にだけど」
三上「そうだったんだ。でも、どうして」
優子「中学の時級長をやってたんだけど、ある時学級崩壊しちゃって」
三上「学級崩壊?」
優子「うん。それがトラウマで、本当は、学校があまり好きになれないでいたのよ」
三上「意外だなぁ」
優子「そう?」
三上「うん。だって君、今は十分フツーに過ごせてるじゃん」
優子「それは、望のおかげだよ」
三上「そうなの?」
優子「うん」
三上「高見さんとは、親友の関係なんだ」
優子「うん。小学校の時からね」
三上「へえ~」
優子「ごめん、話それちゃったよね。そもそも、何お話をしてたんだっけ」
三上「高校の部活の話」
優子「ああ、そうだった。・・・・・・なんかね、私だって、本当はあの部活で、もっと青春したかったの。県大会に向けて、みんなで本気でがんばっていきたかった。なのに、みんな自分のことばかり考えて。それを注意したら、なぜか私が仲間外れにされちゃって・・・・・・」
三上「・・・・・・」
優子「1年の時は、まだよかったよ。先輩もしっかりしてたし、その時の顧問もそれなりに厳しかったから。でも、今年になってからはもうダメダメ。顧問が他の先生に代わっちゃったし、そのせいで皆も変わっちゃった。人間って本当に、良くも悪くも変わるものなんだなぁって、痛感させられたよ」
三上「そう・・・・・・」
優子「ごめん。質問の答えになってたかな」
三上「うん。大丈夫だよ」
優子「そっか。それならよかった」
三上「それじゃあ、小説の続きを書いてくか」
優子「うん。がんばってね」
三上「ありがとう」
三上、執筆を再開する。
優子「ねえ」
三上「うん?」
優子「どんな話を書くつもりなの?」
三上「え?」
優子「ここから、どんな話を書いてくつもりなの?」
三上「・・・・・・ネタばらしになっちゃうけど、いい?」
優子「うん。別にいいよ」
三上「部活をしていたヒロインが、ある日部活をさぼってた同級生たちに注意をするんだ。けど、同級生たちは心の中から悪魔を出現させて、その悪魔たちがヒロインをいじめていくんだ。それで、ヒロインは先生に相談するんだけど、先生の心の中にも悪魔が住みついていて、先生にも怒られるようになる。そしてヒロインは、悪魔たちにどんどん苦しめられていくようになるんだ」
優子「なんか、すごい展開だね」
三上「うん」
優子「それで、どうなるの?」
三上「ヒロインはその部活をやめて、受験勉強に励んでいくんだ」
優子「それで?」
三上「終わり」
優子「ええ~、なにそれ~」
三上「なかなかいい話だと思わない?」
優子「全然」
三上「そうかな」
優子「だって、それじゃあ何が言いたいのかわからないじゃん」
三上「いや、それは、世の中には闇でいっぱい染まっているけれど、希望を持って生きていけばいいんだっていうメッセージがこもってるんだよ」
優子「どこに」
三上「どこにって、わからない?」
優子「うん、わからない」
三上「読解力がないんだなぁ」
優子「いやいやいやいやいや、どう読んでもそうは読めないでしょ」
三上「そうかなあ」
優子「大体、そんな収まりの悪い物語が感動を呼ぶとは、到底思えないんだけど」
三上「僕はこの作品で、感動させたいんじゃないんだよ」
優子「じゃあ、どうして小説を書くの?」
三上「僕はこの作品を通じて、問題提起をしたいんだよ」
優子「問題提起?」
三上「そう。世の中にはまだ、つらい日々を送っている人がたくさんいるんだっていうことを、この作品に込めたいんだ」
優子「問題提起ぐらいだったら、コラムやエッセイで書けばいいんじゃないの?」
三上「そんな文章、いったい誰が読むんだよ」
優子「いまの小説よりは読まれると思うよ」
三上「僕はそんなことないと思うよ」
優子「少なくとも、いまの三上君の小説はカンゼンに自己満足でしかないよ」
三上「そんな」
優子「読者の私がそう言ってるの! 素直に受け止めてよ」
三上「だって・・・・・・」
優子「だって何なの」
三上「だって・・・・・・僕、そこらの物語のように、ハッピーエンドで終わる感じで、皆収まってないように思うんだよ」
優子「え?」
三上「事実いまの君自身だって、こうしてまだ不満を抱えたまま、受験勉強をしてるじゃないか。まともに部活をやり遂げることができずに、モヤモヤした感覚を抱いてるでしょ? それなのに、今時はやりのエンタメ小説やラノベのような、ただスカッとさせるような話を書いたって、本当の意味で読者の幸せになると思うかい?」
優子「それは・・・・・・」
三上「僕の作品の方針は、僕で決めるよ!」
優子「ああ、そう! わかった、それは悪かったね!」
三上「ほんとだよ!」
優子「ほんとだよって・・・・・・」
三上「結局、君もほかの誹謗中傷と一緒だ。僕の作品を何もわかってない」
優子「そんなの、わからないに決まってるじゃん。私は三上君じゃないんだから」
三上「だったら作者の意思を尊重してよ」
優子「言いすぎだったとは思ってるよ。でも、少しは読み手であるこっちの身にもなってみてよ」
三上「建設的な意見だったら聞くよ。でも批判とか指図なんて受けたくはないんだ」
優子「本当にそんなのでいいの?」
三上「いいんだよ!」
優子「それじゃあただの自己満じゃん!」
三上「表現なんて、みんなそうだよ!」
優子「そんなんだからネットでも、『死ね』とか『ウザい』っていう評価がつくんじゃないの?」
三上「うるさい! もう、出て行ってくれ!」
優子「三上君!」
三上「いちいち指図するな! ガリ勉は受験勉強してろ!」
優子「・・・・・・ひどい」
三上「えっ」
優子「ひどいよ、こっちの事情も知らないくせに!」
優子、退場。
4
舞台は学習室。
望は、机に向かって勉強している。
優子、廊下から登場。
望「どうしたの?」
優子「別に」
望「さっき向こうで、言い争いをしてたじゃない」
優子「別になんでもない」
望「・・・・・・ああ、そう」
長い間。
優子、何やら落ち着かない様子。
望「優子?」
優子、望にかまわずにモノに八つ当たりしだす。
望「どうしたのよ、優子」
優子「なんでもない」
望「なんでもないんだったらそんな八つ当たりをしないでしょ? どうしたの。もし私でよかったら、相談相手になるよ」
優子「・・・・・・(泣き出す)」
そこに、三上が廊下に登場。
優子「私、やっぱ受験勉強なんてやめる」
望「え? どうしたの、優子」
優子「なんでこんな高校に入ったんだろう」
望「どうしたのよ」
優子「こんな高校、もうイヤだ!」
望「優子・・・・・・」
優子「こんな窮屈な学校生活、もう耐えられないよ。部活だけが唯一の楽しみだったのに、あいつらのせいでめちゃくちゃにされて・・・・・・!」
望「大丈夫だって、優子。部活をしたいんだったら、大学だってあるじゃない」
優子「大学なんか行きたくない」
望「優子」
優子「大学になんか行って、良いことなんてあるの? 大人はみんな大学へ行け行けうるさいけど、また好きでもない勉強をさせられたり、イヤな子たちと集団生活させられるだけじゃん」
望「そんなことないよ。大学へ行けば、自分の好きなことをたくさんできるよ」
優子「本当に?」
望「ええ、本当よ」
優子「何でそう言い切れるの」
望「・・・・・・最近、大学のオープンキャンパスに行ってきたの。そこで大学の先生がそう言ってたよ」
優子「好きなことをするだけのために大学へ行くなんて、どうかしてるよ」
望「じゃあ、何のために今まで頑張ってたの、優子は」
優子「わからない!」
望「わからないって・・・・・・」
優子「だって、親が高校へ行きなさいって言うから。高校へ行けば、幸せな人生を送れるって言うから・・・・・・」
望「優子・・・・・・」
優子「もう、大学なんてどうでもいい」
望「優子」
優子「大学へ行く理由がわからない。ていうか、いっそこの世の大学なんて、皆つぶれちゃえばいいんだ」
望「いくら何でもそれは・・・・・・」
優子「そうは思わない?」
望「思わない」
優子「どうして」
望「・・・・・・私ね、親が高卒なの。お父さんとお母さん、両方とも。高卒で散々、会社にこき使わされたみたいでね。お父さん、結婚してからは脱サラして、ミカン農家になったのよ。けど、お父さんは農業系の学校へ行ってたわけじゃないから、毎日家計が火の車で」
優子「・・・・・・」
望「優子、私がまともに部活にいかずにこうして勉強ばかりしてるのは、どうしてだと思う? 理由は単純よ。変わりたいからよ」
優子「変わりたいから?」
望「そう。私は変わりたいの。いまの苦しい状況を変えたいの。変革させたいの! そのためには、大学へ行くしかないの」
優子「・・・・・・」
三上「・・・・・・」
望「優子、あんたはいいよ。頭がいいんだから。あんたは特に理由もなく学校へ通ってるかもしれない。けど、頭がいいからいいじゃない。けど、私は違うの! この高校、ただでさえレベルが高いから、授業についていくので精一杯で。でも、もっとほかの人よりもたくさん勉強しなくちゃ、これからの受験を乗り越えることができないの! オープンキャンパスへ行ってみてわかったけど、世の中には、本当にいい大学が、たくさんあるのよ。でも、いい大学へ入るためには、今はこの勉強をやり切らなくちゃいけないの」
優子「・・・・・・」
望「これからの未来がどうなるかなんて、誰もわからないわよ。けど、未来に向かって、明るく生きていこうよ。ね? ここで一緒に、受験勉強をしよ?」
優子「・・・・・・ごめん」
望「ううん、大丈夫。気にしてないから。何年友達をやってると思ってるのよ」
優子「(また泣き出す)」
望「ほら、仕切り直し仕切り直し」
優子「うん・・・・・・! ありがと!」
受験勉強を再開する優子と望。
三上、学習室に入ってくる。
三上「浪川さん。さっきはごめん。ズバズバと偉そうなことを言って、ごめん」
優子「・・・・・・」
三上「僕、君の事情をよく知らなかったんだ。まさか、こんなにもつらい思いをして生活をしてたなんて、思わなかったんだ」
優子「三上君」
三上「君は、ただのガリ勉じゃなかったんだね。苦しかったんだね」
優子「・・・・・・」
三上「ごめん。本当に、ごめん!」
優子「・・・・・・」
間。
三上「ごめん。勉強の途中に」
優子「ううん。ありがと」
三上「え?」
優子「ちゃんと謝りに来てくれて、ありがと」
三上「あ、ああ・・・・・・」
少しの間。
三上「僕、やっぱ、君をモデルにするのをやめるよ」
優子「え?」
三上「君が、ここまで大変な思いをしてたなんて、知らなかったんだ」
優子「三上君・・・・・・」
三上「僕、やめるよ。君をモデルにした小説なんて、書く資格はない」
優子「いや、そんな。いいよ」
三上「いや、ダメだよ」
優子「ダメじゃないよ。せっかく書き出したんだから」
三上「でも」
優子「私には、気をつかわなくていいよ。むしろ、私のことをもっと書いてよ」
三上「えっ?」
優子「私がどれだけ苦しい思いをしてるのかを、小説にしてよ。それで、何度も何度も推敲を重ねて、展示会とかコンクールとかに出品して、ネット上でも公開してさ。それで、三上君の小説で、世の中を変えてよ」
三上「え?」
優子「私をモデルにした小説で、世界を変えてよ」
三上「えっ、でも・・・・・・本当にいいの?」
優子「うん」
三上「僕の小説なんかで、世の中は変えられないよ。むしろ、誹謗中傷を受けるかもしれないんだよ?」
優子「それは、やってみなくちゃわからないじゃん」
三上「でも・・・・・・」
優子「私、楽しみにしてるから」
三上「浪川さん・・・・・・」
優子「三上君、今度、また取材してよ。私のことを、もっと知ってほしいの。それで、キミの渾身の力のこもった、傑作をのこしてよ!」
三上「傑作」
優子「そう。私、正直嬉しかったの。私の話をちゃんと聞いてくれる子がいてくれて」
三上「そうなの?」
優子「うん。だって、普通の子はわからないじゃん。学校へ行きたくない人の気持ちなんか」
三上「まぁ、たしかにね」
優子「でしょ? みんな、ちゃんと夢をもってるからさ。自分の夢に向かって、素直に勉強に励んでるからさ」
三上「うん」
優子「だから、世の中には私のような子もいることを、世界へ発信してほしいの」
三上「浪川さん・・・・・・」
優子「だからさ三上君、もっと私のことを知ってよ。私のことをもっと知って、世の中の大人たちをぎゃふんを言わせるような、名作を書いてよ」
三上「・・・・・・わかった! 約束するよ。君のことをもっと知って、必ずいい力作を書いてみせるよ。約束する」
三上、優子に微笑みかける。
音楽。
望「あの~」
三上「ああ、ごめんごめん! 勉強中だったよね? そろそろ帰るよ」
三上、退場しようとする。
望「待ちなさいよ」
三上「どうしたの、高見さん」
望「いや、その・・・・・・がんばりなさいよ」
三上「え?」
望「小説のこと」
三上「ああ」
望「今度小説ができた時は、今度は私にも見せてちょうだいよ。気になるから」
三上「え?」
望「なによ、その反応」
三上「イヤ、そう言ってくれることはめったになかったから・・・・・・」
望「そう」
三上「ありがとう。僕、がんばって書くよ。それで、君にも見せれるように、がんばるね」
望「がんばりなよ」
三上「うん」
望「非難を受け続けても、負けずに頑張りなよ」
三上「・・・・・・ありがとう! 勉強、がんばってね」
望「もちろんよ」
三上「浪川さんも、がんばってね」
優子「うん・・・・・・お互いにね!」
三上、退場。
優子と望、再び勉強をしだす。
照明転換。
エピローグ
舞台は街中の道路。
女子高生たちがケラケラ笑っている。
女子高生3「ねえ」
女子高生1「ん? どうしたのー」
女子高生3「私たちってさー、どうして勉強してるんだろうねー」
女子高生2「え、どうしたの、急に」
女子高生3「いや、なんとなく、聞きたくなっちゃって」
女子高生2「ふうん」
女子高生3「ねえ。何で私たち、いま高校で勉強してるんだろー。高校で習う勉強が、将来に本当に役に立つのー?」
女子高生2「さあ、それは・・・・・・」
女子高生3「は~あ。何で私、いま高校で勉強してるんだろー」
女子高生1「自分の将来のためなんじゃないの? ・・・・・・わからないけど」
おわり