忠臣蔵~憂き世を生き抜いた、とある老人の話~

2015年05月12日 15:38

舞台   法廷をイメージした小劇場、またはライブハウスのような空間。舞台中央には木槌とたたき台があるようにしたい。

登場人物  話し手(出来る限り、黒の法服をイメージした服装に、青の和服を着せたい。法服は、上が女性用、下が男性用の服装でやりたい。)

音楽が流れる。(希望の音楽は、『味楽る!ミミカ
ナンバーワン』)

語り手登場。

語り手 本日はお忙しいところこうして足をお運びくださり誠にありがとうございます。えー、開演に先立ちまして、改めてお願い申し上げます。まず、携帯電話やアラーム機器の電源をお切りくださいますように、今一度ご確認をお願いいたします。急に音がなったらびっくりしちゃうわけなんですね。どうかご協力をお願いいたします。あと、私がお話している途中で写真撮影をされるという行為は、ここでは音がなしでありしたらOKです。どうぞ、大歓迎です。ただし音のない撮影でご協力をお願いいたします。はい。あと、フラッシュ撮影はおやめください。それはめっちゃ困りますので。はい。それもご協力をお願いいたします。それでは、素人の拙いものでございますが、どうぞお気楽に、最後までお楽しみくださいませ!

話し手、その場で座礼する。

木槌の音。

話し手 改めて実感させられますが、私たちの周りには本当に、メディアが溢れております。例えば先ほど前置きさせていただきましたように、皆様は大抵、携帯電話やスマートフォンを持っていますね。勿論、僕も持っています。最近の携帯はいろんなことが出来るようになってますよね。電話やメールだけじゃなくて、インターネットにつながって、小説とか詩を投稿出来たり、音楽をダウンロードしたり、またテレビや動画も見れますよね。本当に、万能というのはまさにその事でしょう。

「ドラえもん!なにか道具を出してよ!」

なんていう野比のび太君の台詞は皆さんおなじみだと思いますが、あの時代に携帯をドラえもんが出してやれば、彼はさぞ大喜びするんでしょうね。そうは思いませんか?・・・さて。この携帯電話、またはスマートフォンは、僕の見解ではですね、それらが世界を一気に変えてしまう大いなる可能性と危険性があるんじゃないかなあって、思うんですよね。そう思ってるのは僕だけでしょうか。・・・皆様の反応から察するに、多分こういう反論をお持ちの方が少なからずいらっしゃると思うんですよ。

「へっ!この若造め、何もわかっちゃいねえな。そんなのは昔から変わっちゃいねえんだよ。」って。

もしそういう類の事を思われた方に、僕はハッキリと言わせていただきます。おっしゃる通りなんですよ~。今も昔もそんなに変わってないんですよ。ボク江戸時代の事をここ最近よく調べて、それを強く実感しましたね。例えばですね、ある人は「今の時代は物が溢れる時代になった」とか、「情報が溢れている」っていうじゃないですか。そういう方がおっしゃったのを聞いた事ありませんか?まあ確かに、今の時代は物に溢れていますよ。情報満載ですよ。本当に便利な道具に溢れていて、新聞は毎日発行されますもんね。それは強く共感できます。今の時代はチョコ一つにわざわざきれいな銀紙を包む時代ですからね。ですがそれは、江戸時代でもあまり変わってないんですよ。だって、有名な落語に、「饅頭怖い」ってのがあるじゃないですか。饅頭というのは、確かに当時では高級品であったかもしれません。ですがそれは、チョコレートと同じ、お菓子です。江戸時代に新聞のようなモノだってあったんですよ。それは当時では瓦版と呼ばれておりました。あと、音楽メディアもいろいろありましたよね。長唄や舞踊が、その一つです。あれこそまさに、今でいうコンサートのようなものじゃありませんか。そうは思いません?ちなみに江戸時代の代表的な視覚メディアといえば、何と言っても能・歌舞伎です。あれは今でいう、ミュージカルですよね。今は物に溢れていった、情報が溢れていると言いますが、それは江戸時代と比べて考えると、実は今と昔はよく似たようなものなんですね。

江戸時代が今の時代と全部違っているというイメージがついてるのは、少なからずメディアの影響なんですかね。まあ分かりますよ。そもそも衣服が全然違いますからね。あと、男はみんな刀という名前の刃物を手にしてますからね。それ故に、人がバッタバタ死にます。それこそまさに、もう知る人ぞ知る、あの『ロミオとジュリエット』で有名な、シャイクスピア劇の世界そのものですよ。もう人がバッタバタ死にます。敵討ち、まさにそんな人が大半を占めていたものですから、幕府も「敵討ち制度」なんていうものを作ったぐらいですからね。信じられますか?敵を討つためだったら殺しちゃっていいんですよ?それでわざわざ書類まで作って、許しを得て、それで人を殺せちゃうなんて、今の視点で見れば、もう、とんでもない制度じゃないですか。もし自分がカタキにされたらどうなりますか?まさに人生、ジ・エンドですよ。いやですよねえ、そんなの。ですけれども、昔の人はとても頭が良かったものでして、この敵討ち制度にもちゃんとした整備がなされていたんですよね。例えば、こんな決まりがあります。敵討ちをされた人の家族は、その敵討ちをした人をカタキとしてはいけないんです。つまり憎しみの連鎖を防いでいたんですね。よく考えられてますよね。そうやって社会の秩序を作っていたんです。その他にもこんな決まりがあります。幕府の人間を、敵討ちの対象にしてはいけない。それはちょっとやりすぎなんじゃないの、って思われる方もちらほらいらっしゃると思います。ですけれど、よく考えてみて下さい。もしこんな人間が出てきたらどうでしょうか。「こんな敵討ち制度を作った幕府が憎くて憎くて仕方がねえ。幕府をカタキにしてやる!」っていうパターン。困りますよね、そういう人が出てしまったら。そんな人がもし出てしまえば、また戦国時代に逆戻りですよ。そんなのイヤじゃありませんか。ですから、幕府はカタキとなった人間を悪者にすることで、また幕府に逆らった人間を悪人に仕立てる事によって、国の平和を保たせたんですよね。とは申せ、歴史なんてのは繰り返しでございます。皆さまこそが、今ここで、それを強く実感されてるんじゃないですか?

さてそろそろ本題に近づけていきますよ~。

語り手、上に来ていた羽織を脱ぐ。

語り手 『忠臣蔵』といえば、皆様ご存じの方が多いとは思いますが、改めて説明させていただきます。主人公は四十七人の部下・赤穂浪士と呼ばれております。彼らの上司である浅野のためにカタキを討つという、実際に起きた事件に基づいた物語でございます。カタキにされた男の名は、吉良上野介。原因は、幕府の間違った法律・生類憐みの令による判決から来ていると言われております。喧嘩沙汰になった上司・浅野と吉良は、その時代の正当な裁きとしては本来「喧嘩両成敗」法で平等に裁かれるべきだったのです。なのに幕府は、それをしなかった。事件はそこから始まったのでございます。幕府の間違った裁きのせいで滅亡の危機に瀕した47人の部下・赤穂浪士は、浅野のカタキである吉良を殺すことによって、幕府に訴えを起こしたのです。国の間違った行いを、倍にしてお返しをするその様は、まさに昨今流行の『半沢直樹』そのものでございます。

木槌の音。

語り手 「やられたらやり返す、倍返しだ!」

木槌の音。

語り手 この赤穂浪士の事件は、数々の作家によって語り継がれてきました。事件の直後では噂話として。その後は瓦版として。そして芝居として。事件は、やがて物語へと変わります。その物語が広く知れ渡るのを決定的にした作品の名は、歌舞伎・『仮名手本忠臣蔵』。事件勃発から、およそ45年と言われております。

木槌の音。

語り手 それではそろそろはじめましょう。笑いを狙わず心を落とす、前人未踏の新作落語型パフォーマンス・『忠臣蔵~憂き世を生き抜いた、とある老人の話~』!!!

木槌を連打する。

話し手 私のこれからお話する物語は、とある江戸の歌舞伎作家の物語からできた、とある現代劇作家の脚本のストーリーのワンシーンを切り取って、、私なりに大胆に脚色した物語であります。つまりフィクションです。どうぞお気軽にお楽しみください。

木槌の音。

話し手 時は江戸時代 終わりごろ、時代はまさに『忠臣蔵』ブームの真っ只中。そんな江戸の街中で、二人の娘は、何やら怪しい様子。一人は刃物を持ち、もう一人はその彼女の手を強く握っています。そうです。彼女は自殺をしようとしているのです。

「姉さん、どうか止めないでおくれよ」

「止めない訳にはいかないでしょ!私を置いてきぼりにする気かい!」

「こんな世の中もうイヤだ!こんなひどい世の中だったなんても~うイヤだ!」

「どうしてそう思うようになっちゃったのさ」

「敵討ちなんてものに憧れてた私がバカだったよ」

「それで自殺しようって事かい」

「違うよ」

「じゃあ何なんだよ」

「皆うそつきで、皆とんでもない」

「例えば。」

「忠臣蔵のようにかっこいい男を探せと大人は言うでしょ?けれど歌舞伎の忠臣蔵は嘘ばっかりじゃないか」

「例えば。」

「歌舞伎に血の付いた刀なんて出てこないだろ」

「出てこないね」

「だからおかしいじゃないか」

「何がおかしいのさ」

「嘘をつく世の中がおかしい。嘘を許すこの世の中がおかしい」

「ああ、分かった!さっきの事なんだね。そうでしょ」

「・・・・・・。」

「スキあり!」

刃物を取り上げるそぶり。

話し手 「ああ、何すんだよ姉さん!」

「アカリ。あんたね、もしさっきの事を気にしてたんだったらね、もう忘れなよ」

「あんなのが忘れられるわけないよ」

「ハ?じゃあアンタ、一生あんな敵討ちの事で頭いっぱいになって、それで生きてくってのかい」

「それが出来ないから死にたいんだよ!」

「一体どうしたんじゃ」

と、そこに見知らぬ老人が突如として登場。

「ん?一体どうしたんじゃ。わしに話してみい。どうした。」

「あなたは?」

「わしか?」

「ええ」

「わしは、名乗るほどでもねえが、」

「はあ」

「ま、『仙人』とでも名乗っておこうかな」

「仙人!?あの山修行をいつもしているっていう、伝説のおじいさんの?」

「ああ、それは」

「違うんですか?」

「それよりどうしたんじゃ。何があった。」

「・・・うちの妹が病気なんです」

「病気なんじゃないよ」

「だってそんなこと言う子じゃなかったじゃないか」

「それは皆姉さんのせいでこうなったんだよ」

「何だって!」

「まあまあまあまあ。そう喧嘩はしないと。え?何の病気だって?」

「はい。うちの妹、忠臣蔵に憧れてて」

「姉さんだって憧れてたじゃんか!」

「そりゃそうだけど」

「あのね、おじいさん。私たちさ、敵討ちにだまされたんだよ」

「だまされた?」

「はい。もっとカッコいい人だと思ってたのに、あれはタダの人殺しだったんだよ。」

「ああ、なるほどな。」

「ちょっとアカリ、それは言い方が違うってもんだよ」

「でも本当の事じゃんか」

「でもその人が私たちをだましてたわけじゃないでしょ」

「でも私たちだまされてたじゃんか」

「まあまあまあまあ。まずは落ち着きましょうや」

「・・・・・・。」

「え?敵討ちに憧れてた?ほう。憧れること自体はいい事じゃないか。わしなんかな、もう世の中の事を知りすぎてナ、もう何に憧れて生きて行けばいいのかが分からなくなっちゃったんじゃよ」

「世の中の事を知りすぎた?」

「そうじゃよ」

「だから『仙人』なんですか?」

「そうじゃよ~」

「そうですか」

「でも、憧れるというのは、いい事だ。ホントそう思うよ。うん」

「ですけれど、おじいさん。」

「何だい、お姉さん」

「私、心配事があるんです。」

「どうした。」

「妹が、アカリが、また自殺するんじゃないかって、心配なんですよ」

「姉さん!」

「自殺?何で自殺なんかしようとしたんだい、お嬢さん。」

「・・・正直に話します。」

「うん」

「私たち、芝居小屋で歌舞伎の『忠臣蔵』を観たんです。その『忠臣蔵』に感銘を受けて、それで、敵討ちをする侍に憧れたんです。そしたら、その芝居の帰りに本当に、敵討ちを志すお侍さんが現れて、もうワクワクしちゃって、それで、彼の元へしばらくついて行ったんです。」

「お姉さんと一緒にか?」

「はい、そうです。」

「そうかいそうかい。それで。」

「うん。それで、その敵討ちについて行ったら、彼の探してたそのカタキに実際に出会って、それで決闘があって、それで・・・それで・・・・・・それで・・・」

「・・・。」

「それで・・・」

「分かった。もう言わなくていい。大体想像が出来た。もういい。」

「うん。」

「そうか。それで生きる希望を失って自殺しようとしたって事か」

「そうなんです。」

「なるほどな。」

「おじいさん。私、どうしたらいいんですか?」

「どうしたらいいって。」

「私、『忠臣蔵』にだまされて、敵討ちに憧れさせられて。もう、正直言って、恥ずかしいんですよ。」

「アカリ。」

「『忠臣蔵』にだまされた?」

「はい」

「馬鹿言っちゃいけないよ。『忠臣蔵』は、アンタをだましてなんかいないよ。」

「でも・・・」

「分かる。分かるよ。そのすごく嫌になっちゃう気持ちは、よく分かる。けれどな、お前さんはその芝居の元となった実話の事を知らないだろ?」

「え?あの話って実話から出来てるんですか?」

「そうなんだよ」

「へえ、私知らなかった。」

「おう、そうかい。」

「それじゃ、ホントにああいうかっこいい人たちって、いたんですね?」

「・・・ああ。いたよ。」

「すっごーい!それじゃあなた見た事あるんだ、ああいう人たち。」

「まあな」

「すごーい!」

「でもねアカリ、あんた、勘違いしちゃいけないよ」

「え?」

「あの芝居の『忠臣蔵』はね、実話に基づいた話ではあるんだけど、架空の物語なんだよ。」

「え、そうなの?」

「残念ながら本当じゃ。」

「え、じゃあ何で、大人はあんな嘘をつくの?」

「嘘?」

「だって、そうじゃん。舞台の上で、お侍さんが実際に血を流したりしないでしょ?」

「ああ、それもそうだな」

「それって何で?」

「何でって・・・まあ、な。・・・いいかいお嬢ちゃん。信じるか信じないかは別にあんたの勝手だがな、わしは、あの忠臣蔵の大将・大星由良助が生きていた時代を、実際に生きていた人間なんじゃ」

「え、だとすると、おじいさん今何歳になるんですか?」

「そうじゃな。ちょうど、70歳だの。」

「70歳!?すごい!」

「へへへへ」

「じゃあ、大星に本当に会ったことがあるんですね?」

「まあな。」

「どんな人たちだったんですか?やっぱり、かっこよかったんですよね?」

「・・・実を言うとな、お嬢さん。あの時わしは、彼らのあの姿を見て、この世がもう終わってしまうと思い込んでたんじゃ」

「え。どういう事?」

「『忠臣蔵』ってのはな、アレは物事を肯定的に見れるようにするための仕掛けのようなものなんじゃよ。だから本当は、奴らの行いは間違った行いだったんじゃよ」

「間違った行い?でも、歌舞伎じゃそんな風には見えないじゃん。それって何でなの?」

「・・・(フッと笑って)あのなお嬢さん。あんたわしの言ってた意味ちゃんと分かってその事を聞いてるかい?」

「いや、全然。」

「アカリ・・」

「だって、おじいさんの話気難しいもん」

「ほう、そんなに気難しいのか」

「肯定的って、何?」

「肯定的か?」

「そう」

「肯定的ってのはな、例えばイヤな物事をいい方面だけ見ようとすることじゃよ。」

「ああ、なるほどね。」

「ようやく理解できたかな?」

「うん。まあ。」

「う~ん、そうかそうか」

「じゃあ、質問していいですか?」

「ああ、いいよ。」

「つまりおじいさんの言いたい事って、実際の大星たちは、悪者だったって事なんですか?」

「・・・わしにとってはそう見えたって話さ」

「おじいさんにとっては?」

「45年前に、お嬢さんこんな法律があったの聞いた事ないかい?」

「どんな法律?」

「『生類憐みの令』という法律じゃ」

「『生類憐みの令』」

「そうじゃ」

「あ。それ、どっかで聞いたことがある。」

「そうじゃろそうじゃろ」

「どんな法律か忘れちゃったけど。」

「ああ、そう。それじゃお嬢さん、ここでおさらいするか。やいお姉さん」

「ああ、はい。」

「『生類憐みの令』ってどんな法律だったかのう」

「ああ、はい。『生類憐みの令』っていうのは、虫一匹殺しちゃいけないという、とんでもない法律でしたよね」

「正解じゃ」

「へえ~、そうだったの?」

「まあ正確には、人は勿論の事、犬一匹殺しちゃいけない法律じゃ。虫は殺しても大丈夫だったんだがな。」

「え?そうなんですか?」

「ああ」

「じゃあ何で、そんな嘘をつく必要があったんですか?」

「お姉さんまでその質問しますか」

「ごめんなさい」

「いいよいいよ。『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』ともいうからな」

「で、どうしてなの?」

「ああ。・・・あれも、基本的には同じ意味合いがあるんじゃがな」

「どういう意味ですか、それ」

「まずは『忠臣蔵』の話に戻そう」

「ああ、はい。」

「大星たちはなぜ悪者だったのか。お嬢さん想像出来るかい?」

「え・・・分からない。」

「お姉さんは。」

「え、えーっと。あ。まさか、彼らは当時、殺人の罪を犯した人たちだから?」

「(ニッコリとして)正解。」

「え?!そんな理由で捕まったんですか、大星って!」

「いや、正確には、彼らは敵討ち制度を破った人間でもあったから処刑されたんだがな」

「ええ?!大星って処刑されるんですか?!」

「そうなんじゃよ」

「じゃあ。余計わからない。どうして大人たちは、私たちに芝居で嘘をつくのですか?」

「(再びにっこりと笑って)お嬢さん。わしは、こう思うんじゃよ」

「何をですか?」

「『忠臣蔵』ってのは、物事を肯定的に見れるようにするための仕掛けなんじゃないかってな。わしは、そう思うんじゃよ。」

「あ、ああ。・・・そういう事なんですか?」

「ようやく、理解できたかな?」

「はい。そういう意味では。」

「そういう意味では?」

「つまり、こういう事なんですよね?大星は、本当は悪者だった。けれど本当はいい人たちだった。だから昔の人たちは、悪者と呼ばれていた大星たちを、いいモノに書き換えた。そういう事なんでしょ?」

「そう。アンタ頭がいいノウ」

「いやいやいやいや」

「そう。わしが言いたいのは、そういう事じゃ。」

「じゃあ。質問ですけれど」

「今度は何の質問かな?」

「どうして、そんな事をする必要があるんですか?」

「そんな事?」

「悪者だった大星たちをいいモノにするなんて、何でそんな事をする必要があったんですか?」

「ああ、なるほどな。じゃあお姉さん。アンタはどう思う。」

「え?私は、その・・・」

「何か、見えてるんじゃないのかい?」

「・・・もしかして、それって今の時代に『生類憐みの令』がない理由とつながってるとか?」

「(頷く)」

「・・・そういう事だったんですか。」

「そういう事じゃないかと、わしも思ってるんじゃよ。」

「どういう事ですか?」

「いいかい、お嬢さん。今流行中のあの歌舞伎『忠臣蔵』・正式名称『仮名手本忠臣蔵』はな、何も今に始まった物語なんじゃないんじゃ。本当に数多くの先達があって、今の流行があるんじゃ。あの事件から45年間、わしは芝居の中で、数多くの大星を見てきた。芝居で様々な赤穂浪士像を見てきて、わしは、何で奴らが悪者としてでなくて、善人として描かれ続けてきたのかが、理解できないでいたんだ。でも、その意味が、今となって、この年になってやっと分かった。奴らは、本当の所は悪者じゃなかったんだ。奴等ほど誠意ある侍はいなかったんじゃよ。確かにあの45年前、卑怯者が私腹を肥やして、正直者がバカを見るなんていう、そんなおかしな時代じゃった。そんな中で、彼ら47人の部下たちは、自分たちの最善を尽くした人たちだったんじゃ。今となっては、あの赤穂浪士たちを悪く見ていた自分自身が憎らしい。そう思えてきたんじゃよ。」

「すごい。ホントに仙人なんですね。すごいです!」

「へへへへへへへ」

「そっか。そういう事だったんだ。」

「ああ。多分な。」

「多分?」

「多分わしは、そう思うんじゃよ。」

「・・・」

「どうした?」

「いや、多分の意味が分からなくて。」

「え?」

「多分って、どういう意味ですか?」

「言葉の意味が分からないって事か?」

「そうです。どういう意味なんですか、『多分』って。」

「・・・(フッと笑って)知らぬが仏とはまさにそういう意味じゃな」

「どういう意味ですか?」

「あとで自分でいろんな人に聞きなさい。じきに意味が分かるから」

と、老人はその場を離れて行ったのでありました。

「ありがとう、仙人!私、あなたのおかげで知りたい事が増えたよ!おかげで生きる力をもらったよ!仙人!また会えるかなあ!」

「いつか会えるよ!だってわしのような仙人は、少なくともこの世の中に、千人はおるからなあ!」

 大きく手を振りながら、彼女は姉の手を引いて去っていきました。

すると数分後、何と女の子・アカリちゃんのお姉さんが、老人のもとにやってきました。老人はびっくりとした表情でありました。

「どうしたんだい、さっきのお姉さんじゃないかい。どうした」

「いや、お礼を言おうと思いまして。」

「いや、お礼なんていいんじゃよ。」

「ありがとうございました。本当に。」

「・・・あんた、『ありがとう』の本当の意味を知ってるか?有り難い出来事だから、『ありがとう』っていうんじゃよ?わしはありがたくなんかない」

「いや、私にとってはありがたい事です。本当にありがとうございました。」

「何が。」

「嘘をついてくれて。」

しばらくの間、そこで老人は笑い続けて、その場を去っていったのでございました。

話し手、その場で座礼を行う。

音楽。(できれば、ここでは女子十二楽防・編曲「世界に一つだけの花」の終奏を流したい。)

木槌の音。

話し手 『忠臣蔵~憂き世を生き抜いた、とある老人の話~』、これにて、終幕!

話し手、再びその場で座礼をして退場。

                                おわり