神待ち ~パブリックアーティストと家出女子~

2021年09月29日 02:28

登場人物

 

木村友太郎(きむらゆうたろう) …… 絵描き・26歳

羽田幸(はねださち) …… 大学2年生・19歳

 

★前口上

 

 男が舞台上に登場。

 

男「『神待ち』。それは直訳すると、『救いの手を差し伸べてくれる人を待つ』という意味である。しかし実際に使われる本当の意味は、『特に、家出した女性が自分を泊めてくれる男性を、ネット掲示板などで探していること』を意味する。なぜ彼女たちは神待ちをするのか。それは、世界のどこかには必ず、神が存在していることを信じているからなのだろう。自分を救い出してくれる、神のような存在。そんな有難い人間がいる。彼女たちはきっと、そう思い込んでいるに違いない。だからこそ、彼女たちは神待ちをするのだろう。しかし、この世に神は存在するのか。この社会に『神ってる』人間が存在するのか? 神のように温かく、寛容な性格の持ち主が、この現代社会で存在しうるのだろうか? それは、誰にもわからない。決して、わからない」

 

 舞台転換。

 

★本編

 

 舞台は路上。

 舞台中央には、ビニールシートの上で何枚もの絵が展示されている。

 そんなビニールシートの上でスマホをいじっている、主人公・木村友太郎。

 友太郎はスマホの画面をタッチし、苦しげな表情を浮かべながら操作を行う。

 

友太郎「まったく、しょうがないなぁ~」

 

 スマホの画面を強くタッチする友太郎。

 すると彼は、ほがらかな表情になる。

 

友太郎「はぁ~あ。また随分つかっちゃったなあ。これからどうしよう」

 

 友太郎、スマホをポケットにしまう。

 少しの間。

 友太郎、その場で創作活動に没頭しだす。

 しばらくして、ヒロイン・羽田幸が登場。

 幸はキャリーバッグを引いている。

 幸、友太郎の絵をしばらくじっと眺める。

 友太郎、自分の創作活動をやめる。

 そして、彼は幸のほうをじっと見つめる。

 間。

 

幸「…………」

友太郎「……どうも」

 

 間。

 

幸「あの。これ、何の絵なんですか?」

友太郎「…………」

幸「あの~」

友太郎「……これはちょっと、さすがにわかりづらいよね」

幸「はい」

友太郎「これは、カンタンに言えば、ただのラクガキかな。ただオレンジ色の空の上に浮かぶ、青い太陽。それ以上でもなければ、以下でもない」

幸「なるほど」

友太郎「僕の言ってること、わかる?」

幸「まあ、なんとなく」

友太郎「すごいね」

幸「いえ」

 

 少しの間。

 ため息をつく友太郎。

 

友太郎「ま。こんな絵しか描かないから、僕はいつまでも売れないんだよね」

幸「すみません」

友太郎「いいよ。いつものことだから」

幸「……」

友太郎「ごめん」

幸「いえ」

 

 間。

 

友太郎「イスでも座る?」

幸「いいんですか?」

友太郎「いいよ。さ、どうぞ」

 

 友太郎、イスを幸に差し出す。

 幸、イスの方をじっと見つめる。

 

幸「……やっぱり、いいです」

友太郎「そう。悪いね」

幸「いえ」

 

 間。

 幸はしばらく、絵をじっと見つめている。

 

友太郎「気に入ったの?」

幸「まぁ」

友太郎「ありがとう。嬉しいよ」

幸「いいえ」

友太郎「よければ、一枚どう?」

幸「いや、それは……」

友太郎「だよねぇ~。ごめんね、急にそんな話を振っちゃって」

幸「いえ」

 

少しの間。

 

友太郎「どこから来たの?」

幸「名古屋から」

友太郎「名古屋から!?」

幸「はい」

友太郎「何でまた、名古屋からこんな田舎町に来たの? 旅行?」

幸「まさか」

友太郎「やっぱちがうか。それじゃあ、何?」

幸「…………」

友太郎「もしもし?」

幸「ちょっと、話しづらいです」

友太郎「そう……」

幸「しばらく、ここにいてもいいですか?」

友太郎「もちろん、いいよ」

幸「ありがとうございます」

友太郎「(ニヤニヤ笑いながら)よっぽど、気に入ってくれたんだね」

 

 友太郎、幸の前にイスを差し出す。

 

幸「いいですって」

友太郎「いや、疲れてるでしょ。よかったら、でいいから」

幸「……すいません」

友太郎「いいえ」

 

幸、イスに座る。

 

友太郎「えっと……キミ、名前は?」

 

 幸、友太郎を一瞥する。

 

幸「幸です。羽田幸」

友太郎「幸さんか」

幸「はい」

友太郎「ボクは誰だか、わかる?」

幸「(首を振る)」

友太郎「そっか」

幸「どうしてですか?」

友太郎「いや、その……何でもない。聞いてみただけ」

幸「(苦笑い)」

友太郎「木村友太郎っていうんだ。以後、お見知りおきを」

幸「友太郎さんは、絵描きを仕事にしてるんですか?」

友太郎「見ての通りだよ」

幸「すごい」

友太郎「なに、大したことないよ。見ての通り、まだまだ無名だからね。絵描きとしては」

幸「いつも、ここで売られてるんですか?」

友太郎「まさか。たまたまだよ」

幸「たまたま?」

友太郎「たまたまここで、やってみたいなって思って。それで、露店を開いてみただけ」

幸「なるほど」

友太郎「うん」

 

 間。

 

友太郎「それにしても、ここはいい町だね」

幸「そうですか?」

友太郎「ああ。だって東京の街じゃ、こんな田んぼは見られないからね」

幸「普段は、東京に住んでるんですか?」

友太郎「今は違うよ。まぁ、以前は東京にいたんだけどね」

幸「いいなぁ」

友太郎「そう?」

幸「はい」

友太郎「東京のどこに、魅力を感じるの?」

幸「それは……」

友太郎「うん」

幸「有名人がたくさんいること、ですね」

友太郎「なるほど。……それだけ?」

幸「はい。ダメですか?」

友太郎「いや、ダメではないよ。ちょっと聞いてみただけ」

幸「そうですか」

 

 少しの間。

 ため息をつく幸。

 

友太郎「よかったら、コーヒーでも」

幸「いえ、そんな」

友太郎「いらなかった?」

幸「いや、その……」

友太郎「どっち」

幸「……いただきます」

友太郎「了解」

 

 友太郎、缶コーヒーを幸に手渡す。

コーヒーを飲みだす幸。

 

友太郎「もう、暗くなってきたね」

幸「そうですね」

友太郎「ここには、いつまでいる予定なの」

幸「どうしてですか?」

友太郎「いや、単純に、キミ一人みたいだし」

幸「大丈夫です」

友太郎「ホントに?」

幸「はい。ここで、待ち合わせてる人がいますから」

友太郎「ああ、そう……」

 

 

 間。

 

友太郎「これから、どうするつもりなの」

幸「さあ。どうなるんだろ」

友太郎「どういうこと?」

幸「あなたは、どうして絵を売ってるんですか?」

友太郎「え?」

幸「こんな郊外の田舎町で、どうして絵を展示販売してるんですか?」

友太郎「僕のことはキミと関係ないじゃん」

幸「聞いちゃダメなんですか?」

友太郎「いや、そういうわけじゃ」

幸「じゃあ、いいじゃないですか」

友太郎「……なんでなんだろうね。僕なんとなく、この町に、彩りを与えたくなっちゃってね。ほら、ここは名古屋行きに乗る人が多いでしょ? みんなとにかく忙しそうに、自分のことで手一杯な様子だからさ。わかるかな、この気持ち」

幸「う~ん。わかる気がします。なんとなく、ですけど」

友太郎「待ち合わせの人は、まだ来てないの?」

幸「はい、そうですね」

友太郎「何時に待ち合わせの予定なの」

幸「夜の8時って言ってました」

友太郎「それじゃあ、まだ随分先じゃん。まだ夕方だもんね」

幸「結構私、迷子になっちゃうタイプですから」

友太郎「なるほど。それなら、いざという時は僕に頼ってよ。この辺のことには詳しいから」

幸「そうなんですか?」

友太郎「うん。実は僕、ここが地元なんだよね」

幸「へえ、そうだったんですね」

友太郎「うん。一度東京へ出たんだけど、夢破れて帰って来ちゃったわけ」

幸「へえ」

友太郎「それで、今はこういう活動をやってるわけ」

幸「こういう活動って、絵の路上販売ですか」

友太郎「いや、これは言うなれば、単なる実験だよ」

幸「実験」

友太郎「そう。ここのような田舎町で絵を展示販売してみて、果たして人が止まってくれるかどうかの実験。それをしてみたかっただけだよ。ほら、ここは駅前で、人通りがそれなりにあるでしょ?」

幸「そうなんですか。よくわからないですけど」

友太郎「よく来るんだよ。仕事や学校で乗り降りする人が」

幸「そうですか」

友太郎「見てごらんよ。いま電車が来たでしょ?」

幸「そうですね」

友太郎「ほら、降りた降りた」

幸「あっ、ホント! ……少なくないですか?」

友太郎「そりゃあ、名古屋と比べりゃそうだよ」

幸「あっ、こっちに来る」

 

 間。

 

幸「……素通り、されちゃいましたね」

友太郎「ダメかぁ」

幸「まぁ、そんなもんですよね」

友太郎「ひどいな」

幸「ごめんなさい」

友太郎「いや、まあいいんだけど。……でも、キミはさっき『気に入った』って言ってくれてなかった?」

幸「それとこれとでは話は別です」

友太郎「そんな」

幸「難しいものですよ。絵描きの世界は」

友太郎「……やっぱり、僕の絵じゃダメなのかな」

幸「そうでしょうね」

友太郎「ひどいなぁ」

幸「半分冗談ですよ」

友太郎「何だ、冗談か」

幸「ええ、半分は」

友太郎「…………」

 

 気まずい空気。

 

幸「えーっと、名前はたしか……」

友太郎「友太郎だよ」

幸「友太郎さんは何で、絵を描くんですか」

友太郎「えっ?」

幸「友太郎さんは、何で絵を描くんですか?」

友太郎「いや、何でったって……」

 

 間。

 

友太郎「そもそもさ。人って、モノをつくるじゃない」

幸「はい?」

友太郎「人類の歴史は、モノづくりの歴史だと思うワケ」

幸「何それ」

友太郎「いや、わからない? 人類の歩みは、モノづくりの歩みだっていう話だ 

 よ」

幸「わからないです、さっぱり」

友太郎「わからないかぁ~」

幸「いや、ちょっと待ってください。私、友太郎さんの絵を描く理由を聞いてるんですよ。なのに、何で人類の歴史の話になるんですか」

友太郎「いや、だから。僕が絵を描く理由は、そこにあると思ったからだよ」

幸「どういう意味ですか?」

友太郎「わからないの?」

幸「わからない」

友太郎「どんなところがわからないの」

幸「いやいや、聞いてるのはこっちの方なんですけど……」

友太郎「だって」

幸「……う~ん、つまり、友太郎さんが言いたいのは、多分こういうことですか? 『僕が絵を描いているのは人類のせいだ。ご先祖様がたくさんものづくりをしてきたから、その遺伝子が僕を動かしてるんだ!』……みたいな?」

友太郎「半分当たってるね」

幸「当たってるって……」

友太郎「ああ、ごめんごめん! まあ正確にはね、人類の『おかげ』でいまの僕があると思ってるんだけどね」

幸「はい?」

友太郎「わからない?」

幸「わからない」

友太郎「そう……なんていえばいいのかなぁ」

幸「絵が好きだから、描いてるだけなんじゃないですか?」

友太郎「そうだよ」

幸「最初からそう言ってくださいよ!」

友太郎「たしかに!」

幸「えっ、なに? ソコ納得するの?」

 

 声を上げて笑う友太郎。

 

友太郎「キミ、おもしろいね」

 

 幸、友太郎と距離を置く。

 

友太郎「あっ、ごめん」

幸「…………」

友太郎「待ち合わせの人、まだ来てない?」

幸「はい」

友太郎「そう」

幸「まあ、予定は8時ですもんね」

友太郎「そうだよね。今はまだ6時40分なのに、そんなタイミングで来るわけないもんね」

幸「はい」

友太郎「待ち合わせの人って、男性なの?」

幸「はい」

友太郎「彼氏さん?」

幸「いや、彼氏というか……」

友太郎「ごめん、余計なこと聞いちゃったね」

幸「いえ」

 

 幸のスマホが鳴りだす。

 幸、スマホの画面をタッチする。

 

友太郎「夕ご飯は食べたの?」

幸「いえ、まだ」

友太郎「だったら、駅前にいいお店があるから、紹介するよ」

幸「いえ、いいです」

友太郎「そう……ごめん」

幸「いえ、そうじゃなくて。ちょっとお金の関係で」

友太郎「金欠だってこと?」

幸「ええ、まぁ」

友太郎「……キミ、何のために待ち合わせしてるの?」

幸「どうして、そんなこと聞くんですか?」

友太郎「いや。その人と待ち合わせてから、幸さんはどこへ行くつもりなのかな、って思って」

幸「あなたには関係ないでしょう?」

友太郎「いや、そりゃそうなんだけど……。幸さん、さっき言ってたよね? 『旅行ではない』って。でもキミはキャリーバッグを引いてるじゃないか。それに、服は目立って汚れてはないけれど、妙に汗のにおいがする。最初は気のせいかなって思ってたけど、今の話を聞いてピンときたんだ。お金がないのにキャリーバッグを引いてる。しかも汗臭くなってる。どう考えても、おかしくないかい?」

幸「いいかげんにしてください。怒りますよ?」

友太郎「まさかキミ、家出してるんじゃないの?」

幸「…………えっ?」

 

 スマホが鳴りだす。

 幸、スマホの通話に応じる。

 

幸「あっ、もしもし。はい、幸です。神待ちの。・・・・・・え? いま、待ち合わせ場所に来てます。はい。 (※) えっ? そろそろ来るんですか? 予定よりもずいぶん早いですね。どのへんで待ってればいいですか?」

 

友太郎、幸が通話をしている間に、震えた手でスマホの画面をタッチする。

 

友太郎「(※)もしもし、警察の方ですか? 大変です! いま駅前で女性をさらおうとしている男がいるんです! 今すぐこちらに来てください、お願いします!」

 

 幸、友太郎の方へ向き、自分の通話を中断する。

 

幸「ちょっと、何してるんですか」

友太郎「(無視して)はい、ここの駅は、えーっと……」

 

 幸、友太郎の携帯を取り上げる。

 

友太郎「ちょっ、何するんだよ!」

幸「それはこっちのセリフです! 今、警察に通報してましたよね?」

友太郎「そうだよ」

 

幸、友太郎のスマホの通話を切る。

 

友太郎「ちょ、ちょっと!」

幸「私のことは放っといてください!」

友太郎「いや、できないよ。だってキミは、『神待ち』なんだろ? いまそう言ってたのが聞こえたぞ」

幸「いや、それは……」

友太郎「通話を切るんだ」

幸「イヤ」

友太郎「だったら……!」

 

 友太郎、幸と取っ組み合いになる。

 そして、彼は幸のスマホをぶんどり、自分の耳にあてる。

 

友太郎「おい、聞こえるか、犯人! オレは幸の兄だ。いま幸の隣にいる。ウチの妹に指一本触れてみろ。お前を取っ捕まえて、すぐさま警察へ突き出してやるからな! もしもし、聞こえてるのか!? もしもし! もしもし!」

 

 友太郎、幸にスマホを返す。

 

友太郎「ふう~、もう大丈夫だよ。これでヤツはキミを……」

 

 幸、友太郎に思いっきりビンタする。

 

友太郎「えっ?」

幸「勝手なことしないで!」

友太郎「いや、だって」

幸「チャンスだったのに……大きなチャンスだったのに!」

友太郎「どういうことなの? 説明してくれる?」

幸「…………」

 

 幸、友太郎に携帯を返す。

 間。

 

幸「いまの人、芸能事務所を紹介してくれる予定だったんです」

友太郎「は?」

幸「私に東京の芸能事務所を、紹介してくれる予定だったんです!」

友太郎「芸能事務所?」

幸「そうです!」

友太郎「何で芸能事務所なの?」

幸「私、俳優になるために家出したんです」

友太郎「俳優になるために」

幸「はい」

友太郎「オーデイションを受けるために、神待ちをしてたってこと?」

幸「オーデイション?」

友太郎「違うの?」

幸「はい。簡単に言えば、私、ネット上でスカウトされたんです」

友太郎「は?」

幸「私が『家出中だから誰か泊まらせてほしい』ってSNSで情報発信してたら、急にある人から、DMが届いたんです。その人は、家に泊まらせてくれるだけじゃなくて、『東京の芸能事務所を紹介してあげる』って言ってくれたんです」

友太郎「なるほど」

幸「だからオーデイションというより、スカウトなんです」

友太郎「ごめん。ちょっと、いくつか質問させて。まず、その人とはそもそも知り合いでいたの?」

幸「いえ。SNSでたまたま出会った人です」

友太郎「そう。それともう一つ。キミは家出中だって言ってたね」

幸「はい」

友太郎「家出中に神待ちしてたところに、急に芸能事務所からスカウトが届いたの?」

幸「そうです。私の近況は、SNSでいつも発信してたんです。それである日、本名の後ろに

アットマーク

をつけて『俳優志望・神待ち』って入れたんです。すると次の日に、届いたんです」

友太郎「スカウトのDMが」

幸「はい」

友太郎「東京で声をかけられたのならともかく、SNS上で事務所にスカウトされたなんていう芸能人、全然聞いたことないよ?」

幸「そうなんですか」

友太郎「うん。僕の経験上では、それはたいてい詐欺だよ。ちゃんと事務所のホームページを調べた?」

幸「いえ」

友太郎「どうして」

幸「社外非公開の事務所だって言ってたから」

友太郎「詐欺だね、ゼッタイ」

幸「そんな」

友太郎「いや、ゼッタイそうだよ。本当にちゃんとした芸能事務所だったら、普通は社名を明かすよ。名刺には、事務所のホームページや固定電話の番号が記入されてるはずだよ」

幸「ウソ」

友太郎「ウソじゃないよ。本物のスカウトマンってのは、そういうものなんだよ。何なら今ここで、スマホで調べてみてもいいんだよ?」

幸「……………」

 

 友太郎、自分のスマホでネット検索してその画面を幸に示す。

 

友太郎「ほら」

幸「…………たしかに。同じことが書かれてる」

友太郎「でしょう?」

幸「そんな……」

友太郎「ひやぁ~。よかった」

幸「すみません」

友太郎「いやいや、本当によかったよ。たまたまこうして食い止められたんだから。でもホント、ひやっとしたなぁ。危うく、女の子が誘拐されるのを見過ごすところだったよ」

幸「友太郎さんは、どうして芸能事務所のことに詳しいんですか?」

友太郎「え?」

幸「やけに、新人をスカウトする方法について、詳しすぎるように感じましたけ 

 ど」

友太郎「いやいや。そんなのはネットの受け売りだから」

幸「そうですか」

友太郎「それよりさ。キミ、はやく家に帰ったほうがいいよ。もしも道がわからないなら、警察に通報して、道案内を頼むけど」

幸「いえ、それはいいんです」

友太郎「どうして?」

幸「それは……」

友太郎「うん」

幸「いま、ケンカしてるんです」

友太郎「ケンカ?」

幸「はい」

友太郎「どんなケンカなの。僕でよかったら、話を聞くよ」

 

 数秒の静寂。

 

幸「私の、将来の夢のことで、親とケンカしてます」

友太郎「将来の夢のことで」

幸「はい」

友太郎「たしかキミ、俳優になる、って言ってたね?」

幸「はい」

友太郎「つまり、俳優になることが将来の夢だってことか」

幸「そうです」

友太郎「ああ~。…………俳優ねぇ」

幸「はい」

友太郎「具体的には、どういう俳優になりたいの?」

幸「具体的に、って?」

友太郎「どういうジャンルでがんばりたいの。舞台? テレビ?」

幸「はい。テレビドラマや、映画の俳優になりたいんです」

友太郎「あぁ、なるほど~。でも、どうして?」

幸「え?」

友太郎「どうして俳優になりたいって思ったの」

幸「いえ、それは……」

友太郎「もちろん、話せる範囲でいいんだけど。教えてくれる?」

 

 間。

 

幸「私、ちょっと前まで、登校拒否をしてたんです。学校がもう、大嫌いだったんです。それで、毎日引きこもりをしっちゃって……。でも、ある時テレビをつけてたら、すごく感動的なドラマをたまたま見つけて。特に感動したのは、ヒロインを演じていた女優の松村カナコさん。カナコさんは私と歳がそう変わらないのに、一生懸命すごくいい役を演じていたんです。そのカナコさんのがんばりを見て、私は……」

友太郎「なりたくなったの。俳優に」

幸「そうです」

友太郎「なるほど、松村さんがきっかけでね。まあ確かに、彼女はすごい大女優だよね」

幸「はいっ。でも、親は私の進路に反対するんです」

友太郎「そうなの?」

幸「そうなんです」

友太郎「なるほどなぁ~」

幸「私、できるものなら東京へ行きたいんです」

友太郎「東京へ行きたい。俳優になるために」

幸「そうです」

友太郎「そうか。ほう~。でも、親御さんは反対してるわけだね」

幸「そうなんです」

友太郎「なるほど……」

幸「しばらく家出をすれば、親もわかってくれるんじゃないかと思ってますけど……どう思いますか?」

友太郎「いやぁ、どうって言われても……」

 

 少しの間。

 

友太郎「うう~ん。それは親御さんの気持ちも、わかる気がするなぁ」

幸「え?」

友太郎「いまの芸能界は、そんなに甘くはないよ。もう供給過多になっちゃってるし、その割にテレビ業界のニーズは小さくなってるしね。新人俳優をデビューさせるのをウリにして、素人に演技の講座やワークショップを受けさせて稼いでる事務所が、結構あるんだよ。特に大手の事務所はね。それに、たとえ俳優になることに成功はしても、実入りは少ないよ? よっぽどのスターでない限り、俳優一本で生きていけてる人なんてめったにいない。あんまりおすすめできない職業だと思うなぁ。特に今どきは」

幸「そんな」

友太郎「だったら聞くけど。幸さんは松村さん以外の俳優で、ほかに誰を知ってるっていうの?」

幸「いや、それは……」

友太郎「パッと答えられないでしょ?」

幸「…………」

友太郎「ほらね」

幸「そんなこと言ったら友太郎さんだって。最近活躍する有名な画家を、あなたどれだけ知ってるんですか?」

友太郎「ギクッ!」

幸「まさか、知らないんですか? 現役の画家なのに?」

友太郎「いや、知ってるよ」

幸「じゃあ誰ですか」

友太郎「……岡本太郎」

幸「もう死んでるじゃん」

友太郎「彼を越えた芸術家なんて、僕は見たことはないよ」

幸「あなた

・・・

、ね」

友太郎「じゃあ何? キミは最近の画家で、印象に残ってる人が誰かいるわけ?」

幸「いませんよ」

友太郎「だったら偉そうに、芸術を語るなよ」

幸「語ってませんよ」

友太郎「じゃあ何が言いたいわけ」

幸「私がほかの俳優を覚えてないのを、岡本太郎しか知らない無名の画家なんかに、ブーブー言われたくないです」

友太郎「は?」

幸「そう言いたかっただけです」

友太郎「……」

幸「ダメなんですか? 私がカナコさんに憧れちゃったのが、そんなにいけないことなんですか?」

友太郎「……いや。いけなくはないよ。でもさ。赤の他人であるキミに話をしても仕方ないとは思うんだけど。松村さんが日頃どれだけ努力してるのか、キミ、よくわかってないだろ。あのコはね、小学校の時から子役として第一線で活躍していた女優さんなんだよ? 彼女が出演した作品は何十、いや何百もあるんだよ。最初はただのエキストラからスタートしたんだけど、そのデビュー作で映画監督にすごく気に入られて、次の作品からはいい役をもらうんだよ。けど、それでも当時のメインの出演は、まだB級映画だったんだ。でも、彼女はそこから数々のB級映画で高い実績を積み上げていって、ある日本の映画祭では新人女優賞も獲ってるんだよ」

幸「そうだったんですか」

友太郎「そうだよ。そんなことも知らないの?」

幸「いや、その。友太郎さんの方がやけに詳しすぎじゃありませんか?」

友太郎「いやいやいやいや」

幸「いやいやいやいやいやいやいやいや」

友太郎「僕のはあくまで趣味の域だよ。ちょっと知ってるだけ」

幸「よその絵はまともに見れてないくせに」

友太郎「黙らっしゃいっ」

幸「よく描けましたよね。絵のインプットもちゃんとしてないのに」

友太郎「作品を見れば何でも描けるというワケじゃないよ」

幸「それを、そっくりそのままお返しします」

友太郎「は?」

幸「いい俳優っていうのは、ただたくさん作品を見る人じゃないでしょう? いい演技ができる人こそが、俳優の本来の仕事だと思うんです」

友太郎「それはそうだけど」

幸「だけど?」

友太郎「芸術と芸能界は別物だよ」

幸「そうですか?」

友太郎「うん」

幸「どうしてそう言い切れるんですか?」

友太郎「いや、それは……」

 

 少しの間。

 

友太郎「いずれにしても、俳優はおすすめできない仕事だな」

幸「どうしてですか?」

友太郎「人気すぎる仕事だからだよ。今は芸能人になりたい人が、ワンサカいるでしょ?」

幸「そうなんですか?」

友太郎「違うの?」

幸「そんなに人気じゃないですよ、芸能人」

友太郎「そうなの?」

幸「はい。少なくとも最近のデータでは、芸能人はあまり人気の職業じゃなかったはずです」

友太郎「うっそだあ」

幸「何なら、今ここでググってみましょうか?」

 

 幸、スマートフォンを取り出して検索を始める。

 そして、彼女は友太郎に、自分のスマートフォンの画面を見せる。

 

友太郎「ほ、ホントだ……テレビ俳優って、こんなに下だったの?」

幸「そうなんです。今はユーチューバーの方が人気なんですよ、世間の子供たちは」

友太郎「時代って変わるものだなぁ」

幸「人気がなくなったんですよ、俳優のお仕事自体が」

友太郎「そうなのかぁ~」

幸「同世代が目を向けていないからこそ、挑戦してみたいって思ったんです。私はカナコさんみたいに、日本一の大俳優になるんだって!」

友太郎「なるほど。なるほどなぁ~」

幸「はい!」

友太郎「まあ~、夢を持つことは大切だと思うけど、現実はそう甘くないからね」

幸「俳優の世界って、そんなに厳しいんですか?」

友太郎「ああ、厳しいね」

幸「どうしてそんなことがわかるんですか?」

友太郎「いや、どうしてったって……」

 

 間。

 ため息をつく友太郎。

 

友太郎「ごめん、余計な話をしちゃったね」

 

 友太郎、自作の絵を片づけだす。

 

幸「どうしたんですか?」

友太郎「いや、そろそろ店をしまいたくてさ。もう実験の結果もわかったし」

幸「もう少し続けてください」

友太郎「どうして?」

幸「……まだ、見てたいんです」

友太郎「…………そう」

 

 友太郎、片づけるのをやめる。

 間。

 

幸「友太郎さんはどうして、絵描きになったんですか?」

友太郎「え? どうして僕のことを聞くの」

幸「参考にしたいんです」

友太郎「参考って?」

幸「私の進路の、参考にしたいんです」

友太郎「なるほど」

 

 少しの間。

 

友太郎「……僕が絵描きを始めたのはね、実は、大きな野望があるからなんだ」

幸「野望」

友太郎「そう」

幸「どんな野望ですか?」

友太郎「……笑わない?」

幸「笑いません」

友太郎「いや、ゼッタイ笑うね」

幸「笑いませんってば。で、どんな野望なんですか?」

友太郎「……世界一のアーティストになることだよ」

 

 間。

 幸、声を上げて笑う。

 

友太郎「ほら笑った~!」

幸「ごめんなさい、ついおかしくて……」

友太郎「何がおかしいんだよ。こっちは真剣なんだよ!」

幸「だって、世界一でしょ? アハハハハ」

友太郎「ここ笑うトコじゃないよ?」

幸「わかってるんです、わかってるんですけど……」

 

 友太郎、しょぼくれる。

 

友太郎「もういいよ。笑いたければ笑えばいい。笑えよ。く~っ!」

幸「ごめんなさい、もう笑わないから」

友太郎「ホントに?」

幸「はい」

 

 幸、必死に笑いをこらえている。

 キッとにらむ友太郎。

 笑いを抑える幸。

 間。

 

幸「何で、世界一の画家になろうと思ったんですか?」

友太郎「え?」

幸「何かキッカケがあったんですか?」

友太郎「そうだね。今でも忘れられないよ。あれは、僕が中学の頃だった。僕は当時、芸能界でもかなり名を馳せた、売れっ子の子役だったんだよ」

幸「そうだったんですか!?」

友太郎「そうだよ」

幸「だからですか。そんなに芸能界に詳しいのは」

友太郎「まあね。でも今では、ずいぶん引っ込んじゃったけどね」

幸「なるほど。道理で」

友太郎「でもホントは、その経歴は隠しておきたかったんだ」

幸「どうしてですか?」

友太郎「また、イチからやり直したいんだ。僕の人生を」

幸「イチから」

友太郎「そう」

幸「ふぅ~ん……でも、どうして人気の子役だったのに、今は絵描きなんですか?」

友太郎「つらかったんだよね。テレビの仕事が」

幸「そうなんですか?」

友太郎「うん」

幸「テレビの仕事なんて、すごく楽しそうに見えますけど」

友太郎「そんなことない、全然だよ。おかげで僕は中学の時、うつになりかけたからね」

幸「へえ」

友太郎「僕が絵の世界にハマったのは、その頃なんだよ。キッカケは自宅のテレビで見た、美術展を取材したドキュメンタリー番組。普段そういうのはあまり見ないんだけど、その日はたまたま気分で、テレビのチャンネルをあちこち流し見してて。そこで出会ったのが、あの岡本太郎の『太陽の塔』だったわけ。感動したよ。世の中には、ああいう大胆な美術品をつくる人がいるんだって、ほれぼれしちゃった」

幸「ああ、そうですか……」

友太郎「岡本太郎っていう芸術家を知ってから、僕は川崎の、岡本太郎美術館に通い詰めになった。彼の古びない斬新な作風には、僕はたびたび命を救われたよ。何度彼に助けられたことか」

幸「岡本太郎が、あなたを助けたんですか?」

友太郎「そうだよ」

幸「どうやって」

友太郎「どうやってって。わからない? 彼の作品の力で、だよ」

幸「作品の力で」

友太郎「岡本太郎の、あの勇敢な作風のおかげで、僕は生きる勇気を何度ももらったんだ。彼の作品がなければ、僕は今頃、首つり自殺をしてたところだった。いいや、正確には『とっくの昔に』、だね」

幸「勇敢な作風って、どんな作風なんですか?」

友太郎「わからない?」

幸「はい」

友太郎「わからないかぁ~。うう~ん、何て言えばいいのかなぁ。……つまり、僕が見たあの時の『太陽の塔』は、幸さんにとっての松村さんだったんだよ」

幸「どういう意味ですか?」

友太郎「わからない?」

幸「いや、わかるような、わからないような……」

友太郎「つまりはね、こういうこと。キミが松村カナコさんの演技に触発されたように、僕も岡本太郎の作品に触発されたってことだよ」

幸「ああ~」

友太郎「ようやくわかってくれたか」

幸「はい、多分」

友太郎「……」

 

 電車が通り過ぎる音。

 間。

 

幸「また、素通りされちゃいましたね」

友太郎「いや。これでいいんだよ」

幸「どうしてですか」

友太郎「みんなの表情が、明るくなったから」

幸「そうでした?」

友太郎「そんな気がする」

幸「ダメじゃん」

友太郎「いや、ダメじゃないよ。そもそも僕がやってるのは、あくまでパブリックアートなんだから」

幸「パブリックアート?」

友太郎「そうだよ」

幸「なんですか、それ」

友太郎「要するに、民衆のための芸術ってこと。売れるか売れないかは関係ないの」

幸「じゃあ、食いっぱぐれてもいいってことですか」

友太郎「そうは言ってないでしょ」

幸「じゃあどういうことですか? さっぱりわからない」

友太郎「まあ……わからなくたっていいよ。ここからは芸術家にしかわからない、独特の世界なんだから」

幸「ああ、そう……」

 

沈黙。

 

友太郎「キミは、これからどうする気なの」

幸「『どうする』、といいますと?」

友太郎「言葉そのままの意味だよ」

幸「はあ」

友太郎「家に帰るか帰らないか、っていう問題もそうだし、キミの将来のことも気になるし。どうなの」

幸「………やっぱり、東京へ行きたいです」

友太郎「東京へ行くって、アテがあるの?」

幸「ないですけど」

友太郎「じゃあダメじゃん」

幸「でも行きたいんです」

友太郎「俳優になりたいから」

幸「そう、ですね」

友太郎「俳優にねぇ~。やめといた方がいいよ。特にテレビは」

幸「どうして?」

友太郎「あの世界はもう終わってるから」

幸「そうですか?」

友太郎「うん。終わってる」

幸「私はそうは思わないけど」

友太郎「キミは、でしょ。でも世間では、もう終わってるよ。テレビの業界はね」

幸「どうして、そう言えるんですか?」

友太郎「テレビの大半は、民間企業の広告収入で成り立ってるんだよ」

幸「何ですか、それ」

友太郎「知らないの?」

幸「知りませんよ、そんなの」

友太郎「じゃあ解説するけど。テレビに流れてるCMがあるでしょ? アレ、たいてい企業が商品の紹介するじゃない。何で彼らは自社商品の紹介をするか、わかる?」

幸「さあ、さっぱり」

友太郎「理由は簡単さ、売れるからだよ。たとえば、子供向けのテレビ番組でグミのCMが流れると、子供はついグミを食べたくなるでしょ? そしてそれをしつこく流せば、そのCMのイメージソングを子供がつい口ずさんじゃうワケ。それで、その歌が親御さんの耳にも届いて、その出どころであるCMを知る。そして子供がそのCMを見て『食べたい』と言う。で、結局……」

幸「商品を買う」

友太郎「そう! だからテレビのCMによる広告効果は、かなり大きいんだよ」

幸「なるほど。でも、よく知ってますね」

友太郎「そんなのは常識の範囲だよ」

幸「友太郎さんって、そんなにお金が好きなんですね」

友太郎「そういうことじゃなくて。……まあいいや。要するに、テレビはその広告収入で食べていけてるんだけど、最近じゃそのテレビの広告収入が、ネットの広告収入よりも下回ってるワケ。それは何を意味すると思う?」

幸「……テレビ離れが起きてる、って言いたいんですか?」

友太郎「正解」

幸「そんなまさか」

友太郎「じゃあ幸さんは、最近テレビでちゃんとCMを見てたりする? しないよね? それに、もしも好きなテレビドラマを見逃したら、どうやって追いかけて見るようにしてる?」

幸「それは……」

友太郎「ネットとかアプリ、良くても録画だよね。しかも、CMを飛ばしてない?」

幸「…………でも」

友太郎「まあ、たしかに。最近のテレビも、いろんな事業に手を伸ばしてる会社が多いみたいだから、テレビ番組がなくなることはないとは思うよ。でも、ちょっと前みたいに、みんながテレビにかじりついている時代は終わりつつあるのは、間違いないよね。ラジオがマイナーなマスメディアになったように、テレビもどんどん、マイナーになってくるんだよ。それでもキミは、テレビの俳優を目指すの?」

幸「………」

友太郎「僕が芸能人だったから断言するけど。今の芸能界は、あまりに将来性がなさすぎるよ。悪いこと言わないから、芸能人になんか、ならない方がいい」

幸「イヤ。私はなりたい」

友太郎「どうして」

幸「私も、松村さんみたいになりたいんです」

友太郎「それは無理だよ」

幸「やってみなくちゃわからないでしょう?」

友太郎「いいや、ゼッタイ無理だね。松村さんとキミでは、影響力があまりに違い過ぎるよ。さっきも言った通り、彼女はキミの想像を絶するほどの努力を重ねてるんだ。俳優の世界は、そう甘くはないよ」

幸「でも、なりたいんです」

友太郎「なりたくてなれるものじゃないんだよ、俳優ってのは」

幸「かと言って、挑戦もせずに『諦めろ』と言いたいんですか?」

友太郎「……キミは、俳優のどこに憧れてるの。まともにお金にはならないし、その割に競争は激しい。もう、終わりつつある業界なんだよ?」

幸「私は、あの松村さんのおかげで今があるんです! 松村さんが演じたドラマのヒロインのおかげで、私は生きる力をもらったんです。そんな松村さんに恩返しがしたい。私も一流の俳優になることで、松村さんに、感謝の言葉を届けたいんです!」

友太郎「……気持ちは、よくわかったよ。でも、いまの状況を見なよ。そんなキミが、いまは何してるの。愛知県の田舎町をほっつき歩いて、だまされて、誘拐されそうになって。それでもまだ、親に反抗して家出してる。そんなんで、本気で俳優を目指してるっていうの?」

幸「何とかします」

友太郎「どうやって」

幸「東京へ行きます。上京して、いろんな俳優事務所の戸を叩きます」

友太郎「甘いね。甘すぎるよ」

幸「え?」

友太郎「そもそも、入所オーデイションを行ってない事務所には新人のニーズはないし、あるとしても、たいていの事務所はまずはレッスンをやらされるよ。キミは演技経験はあるの?」

幸「ないです」

友太郎「じゃあダメだね」

幸「そんな」

友太郎「悪いことは言わない。俳優の夢は、ゼッタイ、あきらめた方がいい」

幸「…………」

 

 幸、じっと立ち尽くしている。

 間。

 

幸「やだ」

友太郎「幸さん」

幸「帰りたくない!」

友太郎「……」

 

 ため息をつく友太郎。

 

友太郎「まあ。夢を持つこと自体は、いいことだよ。僕もヒトのことを言えたタチじゃないからね。でも、ひとつ言わせてほしい。キミには圧倒的に、現実を直視する力がなさすぎる。時代の流れをわかってないし、ニーズも読めてない」

幸「(友太郎をにらみつける)」

友太郎「僕は事実を言ってるんだよ。2019年、この令和の社会では、キミは俳優として求められてない。俳優のニーズなんて、元からないんだよ」

幸「ひどい」

友太郎「本当のことさ。ウソだと思ったら、自分で確認するといいよ。絶望するなら早いほうがいい」

幸「…………」

友太郎「早く帰りなさい」

 

 幸はちっとも動かない。

 

友太郎「言いすぎなのは、認めるよ。でも、僕も元子役だから、見えちゃうんだ。キミが芸能界で苦しむ姿が。悪いことは言わない。芸能界で生きていこうとは、思わない方がいい。あそこは本当に、地獄だ。修羅場なんだよ。そりゃ、松村さんと一緒に、俳優として仕事したいっていう夢は、わからなくはないよ。でもね。世の中には、できることとできないことがあるんだ。いまキミがやろうとしてることは、明らかに後者の方だ。まだまともに絵も描けないアーティストが、いきなりピカソやゴッホのように、有名になろうとしているのと同じなんだよ」

幸「………」

 

 間。

 

友太郎「もう、夜になっちゃったね」

幸「…………」

友太郎「帰ったほうがいいよ。親御さん、心配してるよ?」

幸「でも……」

友太郎「家出しちゃったことは、素直に謝ればいいよ」

幸「いや。謝りたくない」

友太郎「どうして」

幸「私、悪くないもん」

友太郎「そうかい?」

幸「はい」

友太郎「キミは実家暮らしなんだろう?」

幸「そう、だけど……」

友太郎「だったらダメじゃないか」

幸「でも悪くないもん!」

友太郎「どうして」

幸「私のことを応援しない、あっちの方が悪いんだから。ドリームキラーもいいトコよ、ホント」

友太郎「そんなになりたいの、俳優に」

幸「はい」

友太郎「やめといた方がいいって、何度言えば分かるんだよ」

幸「でも、なりたいんです!」

友太郎「……そんなに松村さんと仕事をしたいの、俳優として」

幸「はい」

友太郎「決して、ラクな道じゃないんだよ?」

幸「覚悟はできてます」

友太郎「ホントに?」

幸「はい」

友太郎「どんな状況になっても、俳優になる夢をあきらめないってことだね?」

幸「はい」

友太郎「貧乏な生活が続いたとしても、俳優として生き続けるってことだね?」

幸「はいっ」

友太郎「なるほどねぇ~。……だったらなおさら、ウチに帰らなくちゃダメだよね。ひとりで上京して生きていけるほど、俳優の道は甘くないよ」

幸「それはさっき聞きました」

友太郎「いいからウチへ帰りなさい」

幸「やだ」

友太郎「また不審者に絡まれても知らないよ?」

幸「わからず屋の親に従うよりはマシよ」

友太郎「キミさぁ」

幸「友太郎さんは、絵描きでは世界一になれませんよ」

友太郎「は?」

幸「そう言われたら、どうします?」

友太郎「いや、それは……」

幸「あきらめないでしょう?」

友太郎「ま、まあね……」

幸「ほら! ひとのこと言えないじゃん」

友太郎「僕の場合は、キミとは違うんだよ」

幸「どういう意味で?」

友太郎「僕はキミと違って、芸術のことをよく勉強してるし、後先のこともしっかり考えてる。こう見えて僕は、美術専門学校を出てるんだよ?」

幸「それで?」

友太郎「それでって。だから、僕には才能があるんだよ。あとは世間の理解が追いつけばいいだけで」

幸「専門学校を出た学生が、みんな有名なアーティストになれるってこと」

友太郎「そうは言ってない! ただ、僕はそこでは成績が良かった。だから……」

幸「美術の世界に、成績なんて関係あるんだ。好成績な画家の絵がその辺に転がってるのに。絵なんて一枚も売れてないくせに」

友太郎「キミはいったい何なの? バカにしてるわけ?」

幸「いえ、そんな」

友太郎「イヤ。バカにしてるよね、どう見たって」

幸「私が言いたいのは、要は、『人生はどうなるかわからない』ってことです」

友太郎「どういうこと?」

幸「もともと人気だった子役の友太郎さんが、こうして今では絵描きになったように、私の人生だって、これからどうなるかわからないでしょう、ってこと!」

友太郎「……まあ、それはそうだけど」

 

 間。

 

友太郎「でもさ。僕は心底、俳優はおすすめしないね。あんな世界ほど、ブラックな世界はないよ。出来高制の給料で、それがないと生きていけないし、自分が演じたい役はできないし。キャリアが上の俳優にはペコペコ頭を下げなくちゃいけないし。そもそも今時、俳優だけで食べていけてる人なんて、ホント一握りなんだよ? 言ってる意味わかるよね? つまり、結局俳優の大半は、バイトで食い繋いでるってことだよ? それでもキミは、本気で俳優を目指したいの?」

幸「………」

友太郎「僕は確信してるよ。キミみたいなコは、ゼッタイ路頭に迷うって。下手したら家賃もまともに払えずに、追い出されて、一生やりたくもないバイト生活に明け暮れるか、ヘタしたら、キャバクラでコキつかわされることになるかもしれない。バカにならないんだよ、東京の家賃って。もし向こうでお金がなくなっちゃったら、キミはいったい、どうする気なの?」

幸「そんなふうにはなりません」

友太郎「そういう女の子を、何人も見てきたんだよ!」

幸「………………」

友太郎「悪いことは言わない。ひとまず、ウチへ帰りなさい。ね?」

幸「うるさい」

友太郎「幸さん」

幸「無名の絵描きは黙ってて!」

友太郎「…………」

 

 間。

 電車の通り過ぎる音。

 友太郎、ため息をつく。

 

友太郎「また、素通りされちゃった」

幸「結構、いい絵なのに」

友太郎「そう言ってもらえて嬉しいよ」

幸「でも、世の中には上がたくさんいますからね。無名の描くラクガキなんかで食べていけるほど、世の中甘くはないですよ」

友太郎「失礼な」

幸「ホントのことでしょう?」

友太郎「まあ、そうだけど……」

 

 間。

 

幸「やっぱり、諦めなくちゃいけないのかな」

友太郎「ん?」

幸「こんな国の中じゃ、私の夢なんて叶わないのかな」

友太郎「幸さん、どうしたの」

幸「どうしたのって、見ての通り迷ってるんです、誰かさんのせいで」

友太郎「イヤ。僕は、夢自体を否定しているんじゃないんだよ。ただ、目標の定め方が問題なだけで」

幸「なるほど」

友太郎「幸さん、俳優以外の道で、何かやりたいことはないの?」

幸「ないですね」

友太郎「ほんとに?」

幸「はい」

友太郎「どうして」

幸「どうしてって?」

友太郎「俳優になること以外で、他になりたいものがあったりするでしょ」

幸「たとえば?」

友太郎「たとえば……ファッションブランドを立ち上げるとか」

幸「興味ないです」

友太郎「まったく?」

幸「はい。というか、現実味なさすぎだし。大体、何でファッションブランド?」

友太郎「いや、たとえばだよ。タトエバ」

 

 少しの間。

 

友太郎「なら、じゃあ、聞き方を変えるけど。幸さんは小さい頃から、ずっと俳優を目指してたの?」

幸「そうじゃないけど。どうしてですか」

友太郎「いや。ちょっと、気になっちゃって」

幸「小さい頃は、夢なんて何も持ってませんでした」

友太郎「そうなの?」

幸「はい」

友太郎「なんで」

幸「私、しんどかったんです」

友太郎「えっ?」

幸「人生にものすごく、疲れてたんです」

友太郎「人生に疲れてた。小さい頃から?」

幸「はい」

友太郎「どうして」

幸「小さい頃から、私。いろんな教育を受けてきたんです。幼稚園に行かされる前から、絵の勉強をさせられて、小学校からはさらに、学習塾に通わされました。中学受験のための勉強も、親から『いつか必ず幸のためになるから』って、授業が終わってからまともに遊びに行けずに、一日5~6時間も部屋に閉じ込められて。高校も、一流の普通科に通わされました。まともに自分の好きなこともできないまま、親の期待に応えるためだけに有名大学へ入学して。それでやっと、私の未来は開けたと思ったんです。なのにそこは、膨大な授業の課題レポートとテスト対策ばかりで、魅力的な先生は誰一人としていない。『奨学金』っていう借金を背負わされて、いまだに続いていく魅力のない講義たち。もう、耐えられなかった! それで私、途中で気がついたんです。私の未来は、これからも明るい未来ではないんだって。私を救う神様なんて存在しないんだって。親の言うことばっかり聞いてしまうと、私は人として、死んでしまうんだって」

友太郎「…………」

幸「だから私は、家出をしたんです。神待ちをするようになったんです。松村さんとの出会いは、私にとっては運命の出会いだったんです。まさに神様でした! 松村さんがいなかったら、私、自殺してました。きっと、自宅の近くにある名古屋の高層ビルから、飛び降りてたんでしょうね。冗談なしに、もしかしたら、あの電車の前で……」

 

 電車の通り過ぎる音。

 間。

 

友太郎「……キミ。よく生きてたね」

幸「自分でも、そう思います」

友太郎「いまので僕も、なんとなくだけど、わかった気がするよ。そうだよね。たしかにそんな環境で育っちゃ、人生に疲れて、家出したくなるよね」

幸「…………」

友太郎「どうしても、松村さんに会いたいのか」

幸「はい」

友太郎「そっか……でもさ。現実的な話をするけど。もしキミがホントに東京へ行きたいんだったら、やっぱり一度、ウチへ帰ったほうがいいよ。だって、いきなりここから東京へ行ったところで、どうやって寝泊まりする気なの。行くアテなんてないんでしょ? いきなり東京の事務所へ押し入っても、門前払いされるのが関の山だよ」

幸「わかってます」

友太郎「じゃあこれからどうするの。本気で考えてるんでしょ? 俳優になりたいんでしょ?」

幸「…………」

友太郎「違うの?」

幸「(大きく首を振る)」

友太郎「だよね」

幸「でも、親になんていえば……」

友太郎「そんなの決まってるじゃないか。謝るんだよ」

幸「イヤだ」

友太郎「幸さん」

幸「謝りたくない!」

友太郎「……バカじゃないの?」

幸「え?」

友太郎「幸さんはバカだよ。何にもわかってない。幸さんさ、キミの親がどんな思いを抱きながら育ててきたのか、本気で考えたことないだろ」

幸「急にナニ?」

友太郎「親御さんは命を懸けてキミを産んで、一生懸命働いて、キミのためにすべてを注いでいたんだよ」

幸「わかったようなことを言わないで」

友太郎「たしかに、僕は独身だ。けど、あえて言わせてほしい。キミは、とんでもない馬鹿だよ! 親は一番の応援者なんだよ。キミのために人生をささげて、莫大なお金も投じて。自分の夢や希望も、キミ一人のために託してきたんだよ、キミの親は!」

幸「うるさい! うるさいうるさいうるさい、うるさあああぁ~い!」

 

 幸、友太郎をはたこうとするが、友太郎は彼女の手をつかんで止める。

 幸はそれでも抵抗するが、友太郎は彼女をぐいっと食い止めていく。

 間。

 

友太郎「ホントは、気づいてるんじゃないの? さっきから聞いてるとキミは、『親のせいで苦しめられてきた』だとか、『やらされた』だとか言ってるけど。本当はそこまでは思ってないんじゃないの? ただ自分の夢が叶わないのにイライラしちゃって、両親に八つ当たりしてるだけなんじゃないの。自分の夢が叶ってないのを、親のせいにしたいだけなんじゃないの!?」

幸「…………」

 

 友太郎、幸の手をゆっくりと離す。

 幸、その場で泣き崩れる。

 

友太郎「大丈夫、まだ遅くはないさ。いまのキミならまだ間に合うよ。まだ、これからハタチになるんだろ? 大丈夫だよ。幸さん、よく聞いて。キミのお父さんとお母さんは、きっと必ず、キミの夢を応援するはずだ。いや、ゼッタイそうだよ!」

幸「……ほんとに?」

友太郎「ああ」

幸「どうして、わかるんですか?」

友太郎「いやさ。ぼくは独り身なんだけど。あることをきっかけにして、親の気持ちが、少しわかった気がしたから」

幸「え?」

友太郎「幸さんは、最近のライブ配信アプリを、見たことあるかい?」

幸「いえ」

友太郎「そっか。じゃあキミには、ライバーへギフトを贈ってる様子を、見たことがないんだね」

幸「どういうことですか?」

 

 友太郎、自分のスマホを取り出して起動し、その画面を幸のほうに示しだす。

 

友太郎「いまの世の中って、すっごく面白くてさ。最近のライブ配信動画ではね、デジタル課金による『ギフト』を贈ることができるんだよ。視聴者がお金を投じて、ライブ配信者に有料のギフトを贈るわけ。それでそのギフトをもらった配信者が、ギフトをお金に換えるワケなんだよね」

幸「そんなのがあるんですか?」

友太郎「ああ」

 

 友太郎、スマホを操作しだす。

 

友太郎「最近ね、とあるアニメ映画の声優オーディションとして、動画のライブ配信による人気投票があったんだよ。あれはすごかったなぁ」

幸「人気投票?」

友太郎「そう。その人気投票は、さっき言った『ギフト』で大きく決まる制度になっていてさ。僕もちゃっかり、匿名で課金しちゃったよ」

幸「何円課金したんですか?」

友太郎「何円だと思う?」

幸「……5000円ですか?」

友太郎「3万円」

幸「3万円!?」

友太郎「そう」

幸「デジタルのギフトなんかに、3万円もかけたんですか?」

友太郎「決して安くはなかったよ。でも、僕のその3万円のおかげで、声優デビューを果たした少年がいるんだ。すごかったよ。彼は最初はね、罵詈雑言を浴びながら、孤独にライブ配信をしてたんだ。でも、少しずつ心あるファンが集まってきてね。最初は励ましのメッセージや、無料のわずかなハートマークだけだったけど、少しずつ安めのギフトが贈られてきてね。それでさ、ボク思ったんだよ。『この子のためなら、1万円のギフトなんて安いものだ』ってさ。それで、僕は思い切って贈っちゃったんだよ。1万円のタワーギフトを、3つもね」

幸「……。結果は?」

友太郎「その少年の夢は叶ったよ。僕が投じたタワーギフトをきっかけにしてか、次々と応援してくれるファンが増えてね。それで、声優オーディションのたった2枠の中に、トップで合格したわけ」

幸「すごい……」

友太郎「ああ、ホントにすごかったよ。世の中にはあんなに応援してくれる人にあふれてて、そんなファンに恵まれている子がいるなんて、思いもしなかった! 感動しちゃったよ。……芸能界っていうのは、そういう応援があって、初めて成り立つんだよ。ただ自分が『なりたい』って思ってるだけじゃダメなんだよ。キミの親は、今までキミのために、たくさんギフトしてくれたはずだ。誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントを、何度ももらってきただろ? 小さい頃においしいご飯ももらっただろ? 気持ちよくお風呂に入れさせてもらって、綺麗な服もたくっさん着せてもらってるだろ? 今までそこまでやってくれてる親が、本当にキミの夢を見捨てると思うかい? そんな親が、キミの夢を見捨てるワケないだろ!」

幸「…………」

友太郎「何度でも言うよ。親は、キミの一番のファンなんだ。毎日ギフトを贈ってくれてる、もっとも大切な応援者だ。それを忘れちゃダメだ。芸能界は、すごく残酷で冷たい世界だ。それは間違いない。だから勧めたくはないし、そんな世界に行ってほしくない。でも、キミがどうしても、どうしても行きたいのなら、僕は止めない。ただ、それだったら応援者が必要だ。キミを一番身近に応援してくれる、大切なファンが必要だよ。幸さん。キミが一番口説きやすいファンはいったい誰なのか、ここまで話せば、もうわかるだろ?」

幸「……(小さくうなずく)」

友太郎「よかった。じゃあ、次にやるべきことは何なのか。もうわかるんじゃないかい?」

幸「……お父さんとお母さんに、謝る」

友太郎「そう! 今まで必死に育てて見守ってくれたご両親に、まずは謝るんだ。その上で、キミがさっき必死に、僕にぶつけてきた純粋な夢を、二人に語るんだ。最初は否定されるかもしれない。でも、諦めちゃいけない。それは乗り越えるべき壁だ。何とかして説得するんだよ? さっきみたいに」

幸「はい!」

友太郎「ちゃんと、ウチへ帰れるね?」

幸「はいっ、帰れます」

友太郎「ならよかった!」

 

 幸、ポケットからおそるおそるスマホを取り出し、ゆっくりと画面をタッ

チする。

 その様子を見守る友太郎。

 

幸「……なんて言おう」

友太郎「肩ひじを張らなくていい。自分の素直な気持ちを話しな」

幸「……(うなずく)」

 

 通話を始める幸。

 

幸「あっ、もしもし。お父さん? そう、私。幸だよ。えっ? こんな時間でも、ずっと起きて、待っててくれたの? ……そうだよね。そうだよね……! ごめんなさい! 心配ばかりかけて、ごめんなさい! でも、もう大丈夫だから。私、いまからウチへ帰るから! ……えっ? 車で、迎えに来てくれるの? ……ありがとう。ありがとう! えっと、ここは……またあとで調べて、LINEするね。うんっ。じゃあ」

 

 幸、通話を切る。

 

友太郎「お迎えが来るの?」

幸「(うなずく)」

友太郎「よかったね」

幸「はいっ。あの、もう少し、ここにいていいですか?」

友太郎「ああ。もちろんだよ」

幸「ありがとうございます」

 

 

 電車の音。

 人々の歩く音。

 

 音楽。

 

 間。

 

幸「また、素通りされちゃいましたね」

友太郎「いいんだ。これでいいんだよ」

幸「どうしてですか?」

友太郎「あの人たちの顔を見なよ。なんか、元気そうな顔に見えないかい? 僕の絵のおかげで、みんな、励まされてる気がしないかい?」

幸「…………たしかに。そういう、気がする!」

 

 溶暗。

 

 

                         終わり